取締役会 議長も社外から 武田や三井住友トラ導入
経営監督、一段と強化

取締役会議長に社長・会長でなく、社外取締役を据える上場企業が相次いでいる。「JPX日経インデックス400」の構成企業のうち、2017年は武田薬品工業や三井住友トラスト・ホールディングスなど4社が導入し、企業数は14社と3%強に増えた。
議長は議事進行などで大きな権限を持つ。社外取締役が就くことで予定調和型でない運営を期待できる。

「まずこの1カ月間のバッドニュースを教えてください」。
武田の取締役会は議長の坂根正弘氏(コマツ相談役)がクリストフ・ウェバー最高経営責任者(CEO)に切り出す質問から始まる。議案など説明が少しでも不明確ならCEOに何度でも問いただす。
「他の社外取締役が質問しやすいよう、リードするのが議長の役割」(坂根氏)

議長は取締役の互選で選ばれ、定款や取締役会規則に基づき取締役会招集や議題決定、議事進行などを担う。質問を打ち切ったり、採決を次回以降に繰り延べたりなど議長次第で運営が大きく変わる。
経営トップが議長を兼務するほうが執行部のシナリオ通りに運びやすい。経済産業省によると、東証1・2部企業で会長・社長・CEOの議長兼務は96%に上る。

三井住友トラは昨年6月から、JXTGホールディングス相談役の松下功夫氏が議長を務める。以前は事務局が取締役会の質疑や審議時間などをある程度想定しやすかったが、「結論ありきでなくなり緊張感が増した」(三井住友トラ)。

中長期的な企業価値の向上や株主保護のためには、客観的な立場から経営を監督する社外取締役の導入が有効とされる。
取締役会の要の議長も社外取締役となれば「単に経営の助言役にとどまらず、意思決定で中心的な役割を期待できる」と英シュローダー・インベストメント・マネジメントの豊田一弘氏は話す。

海外では監督と執行機能を分離するのが一般的だ。英国は企業統治指針により議長とCEOの兼務を推奨していない。
米コーン・フェリー・ヘイグループによると、16年に英国企業の95%で議長は監督に特化している。日本でも経営トップが議長を兼務する企業に対し、金融庁が説明を求めることを検討している。

課題は社外出身の議長をいかに機能させるかだ。みずほフィナンシャルグループは15年から、社外取締役の大田弘子議長が投資家向け説明会に参加。企業統治や資本政策などを説明している。議長と投資家の対話機会を設ける企業はまだ少ない。
「企業価値の向上に向け、議長と投資家が意識共有を図る必要がある」とニッセイアセットマネジメントの井口譲二氏は指摘する。(向野崚)

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO25796910X10C18A1920M00/