『偕行』編集部(執筆責任者 加登川幸太郎) 1985年
 結局、不法処理の被害者の数はいくらか
 これは大難題である。この戦史(ゆう注.「証言による南京戦史」)の
最後のところで最も難しい問題にぶつかったの感がある。
 この戦史が採用してきた諸資料にはそれぞれの数字がある。
だがこれらはもともとが根拠の不明確な、いわば疑わしい数で、その真否
の考証も不可能である。その数字をあれこれ操作してみたところで、
「ほんとうか」と問いただされても明確に返答し得ない数字になるだけで
ある。(中略)
 畝本君の三千乃六千、板倉氏の一万三千、共に両氏それぞれの推定概数で
あって、当編集部としてこれに異論を立てる余地は何もない。
これを併記して本稿の結論とする。
 中国国民に深く詫びる
 重ねて言う。一万三千人はもちろん、少なくとも三千人とは途方もなく
大きな数である。
 日本軍が「シロ」ではないのだと覚悟しつつも、この戦史の修史作業を
始めてきたわれわれだが、この膨大な数字を前にしては暗然たらざるを
得ない。戦場の実相がいかようであれ、戦場心理がどうであろうが、
この大量の不法処理には弁解の言葉はない。
 旧日本軍の縁につながる者として、中国人民に深く詫びるしかない。
まことに相すまぬ、むごいことであった。
(「証言による南京戦史」(最終回)<その総括的考察>
=「偕行1985年3月号 P17〜P18)