(社説)宮古島市提訴 裁判を悪用する恫喝だ 2019年9月7日05時00分

 沖縄県宮古島市が市民6人に対し、総額1100万円の損害賠償を求める訴訟の準備を進めている。
市民が市長らを相手取って別途起こした住民訴訟で、
「虚偽の事実を繰り返し主張して、市の名誉を傷つけた」というのが理由だ。

 市民による行政監視活動への意趣返しと言わざるを得ない。
市は方針を撤回し、市議会もまた、首長部局の暴走をいさめてストップをかけるべきだ。
 発端は、不法投棄されたごみを撤去するために、市が14年度に業者と結んだ契約だ。
これについて6人が、ごみの量を過大に見積もって不要な支出がされたとして、
下地敏彦市長らに対し、相当額を市に返還するよう求める住民訴訟を起こした。
 訴訟に先立ち、市の担当職員と業者が、回収したごみの量を水増しして市や議会に報告していたことが
明らかになり、市長自身が謝罪している。事業費の妥当性に市民が疑問をもってもおかしな話ではない。
 裁判所は「契約金額は市長の裁量権の範囲内だった」と判断して市民らの請求を退け、今年4月に
確定した。だが判決理由の中では、業者に対する市の監督・検査のずさんさなどが指摘されている。
裁判を通じて浮かびあがった課題を真摯(しんし)に受け止め、
今後の適正な行政運営に生かすのが、自治体としてとるべき態度ではないか。
 そもそも住民らが問題にしたのは、市長や市幹部による公金支出のあり方の当否だ。それがなぜ「市の
名誉」を傷つけることになるのか。「市長や幹部は市そのものだ」という、ゆがんだ意識が透けて見える。

 監査請求や住民訴訟は、市民が自治体をチェックする重要な手段として、法律で定められている。
実際に全国各地で、首長や議員の違法な支出を正し、
他の自治体にも緊張感をもって執務に当たるよう、注意を喚起してきた歴史がある。
 その手続きを利用した市民が被告とされることになれば、当人らの負担はもちろん、
「行政にものを言うと訴えられる」との不安を広く引き起こし、市民活動を萎縮させかねない。
 裁判を通じて正当な権利回復を図ることは、憲法で保障されている。
だが、批判を抑え込んだり圧力をかけたりする目的で裁判を悪用するケースもあり、
「恫喝(どうかつ)訴訟」「スラップ訴訟」などと呼ばれている。
 正当か不当かの線引きは簡単ではないが、宮古島市の動きが本来の姿を逸脱しているのは明白だ。
公的機関の行いに異議を唱えた住民に、その公的機関が矛先を向ける。
そんなことが許されたら、地方自治や民主主義は機能不全に陥ってしまう。
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