時代の正体〈572〉Jアラートの警告(下)差別が戦争への道開く|カナロコ|神奈川新聞ニュース
 【時代の正体取材班=石橋 学】

平仮名の寄せ書きが吹き付ける寒風に震えていた。 〈せんそうあおるな〉 〈むだなくんれんにかねつかうな〉

 Jアラート訓練に反対する市民グループ「『神奈川県は戦争の危機をあおらないで!』市民アクション」が
25日に主催したデモ。JR桜木町駅前から県庁へ向かう参加者が通りにかざしたメッセージは
川崎に暮らす在日コリアン1世のハルモニ(おばあさん)たちがしたためたものだった。
 自分たちも駆け付けたいけれど、弱った足腰では難しい。せめて思いを届けたいと筆を執った。
 〈ばかげた訓練はやめろ〉 〈意味の無い戦争はやめましょう〉

 日本の植民地支配によってすべてを奪われた上に、いや応なく組み込まれた戦争の記憶は、
差別の分だけより厳しく、みじめなものとして刻まれている。
学びの機会さえ得られず、老いを迎えて通い始めた識字学級で覚えた一文字一文字はだから、
切実さの表れとして筆圧も強く書き記されていた。

 行進しながら、主催団体のメンバーが拡声器で読み上げた訴えが重なって響いた。
 「この訓練はいたずらに人々の危機感と敵愾(てきがい)心をあおることになります。
ルワンダの大虐殺はラジオで流された危機感と敵愾心をあおる放送が引き金になりました」

 1994年、少数派のツチ族への憎悪を扇動するキャンペーンを行ったラジオ局「千の丘」。
防災行政無線のスピーカーから街中に響く、「怖がれ」と強いるサイレンは何をもたらすのか。
訓練中止を求める呼び掛けはこう続いた。

 「神奈川県では関東大震災の時、地域に暮らす朝鮮人を虐殺してしまったという事件がありました。
私たちは危機感と敵愾心をあおる危うさを強く感じています。県は歴史から学んでください」

 横浜を現場に、市井の人々までが手を染めた朝鮮人虐殺は
「震災による混乱が招いた悲劇」といった単純なものではなかった。
「朝鮮人が暴動を起こす」という流言がきっかけになったのも、
治安組織という公の存在自体が流言を信じ、拡散させたからだった。(続く)