アルバコアにセクハラしたい。
最初は本当のイタズラ心だったんだ。
「うはー!」とか言ってるあの元気で聡明なアルバコア。
あの子にセクハラしたらどんなツッコミが返ってくるのかなって。
でも返ってきた反応は「えっ」と驚くと同時に顔を赤らめるというもので。
その意外性と恥じらいの表情にすっかりやられてしまった俺は毎日必ず1回はセクハラをすることにしたんだ。
尻をなでたり後ろから耳に息をかけたり匂いを嗅いだり・・・。
その度に困惑しつつも赤面を隠せず「し、指揮官!?」と声をあげるアルバコアに、何故だろう、俺はとてつもない程の劣情を感じていた。
次第にアルバコアもセクハラに驚きを表さなくなった。
・・・と同時にこちらをじっとりとした視線で見つめて「指揮官のへんたい・・・」と言葉をもらす。
呆れ返っているような表情、態度。
だが彼女の頬がほんのりと赤くなっているのを俺は見逃さなかった。
2週間ほど経ったある時、ついにアルバコアは俺に対して怒りを顕にした。
「指揮官!なんのつもりなんだよぉ!」
少し涙目で怒る彼女の瞳には俺への恥じらいと困惑が混ざりあって映り込んでいた。
悪いことしたな。そう思った俺は真剣に謝ることにした。
「ごめん、アルバコア、可愛すぎてこうするのが止められないんだ」、と。
土下座をした俺の頭の上から、アルバコアは
「・・・あ・・・そう・・・なんだ・・・」
と俺に対してぼんやりとした答えを言った。
土下座のせいで表情は見えなかったがなんだかアルバコアじゃないような声だった。
次の日のアルバコアは変わっていた。
セクハラをする俺に対してかける言葉は「指揮官のへんたい・・・」で全く変わらない。
だがその顔は真っ赤に染まり、そのまま俺のところから走って逃げてしまったのだ。
ついに完全に嫌われた。
そう思った俺は次の日からアルバコアにセクハラするのを辞めた。
これ以上アルバコアに嫌われる前にセクハラを辞めることにした。
海域に出る時の見送りの時も、母校道ですれ違う時も、寮舎に居る時も挨拶だけにした。
そうしたら余計に嫌われてしまった。
何故だかは分からないが、挨拶をしてもその場でじっとコッチを見る。
元気な様子ではなく真面目にじっとコッチを見るのだ。
そして俺が何もしないと分かると目を伏せ足早に駆けていってしまう。
何故だろう。困った俺は明石に相談することにした。
「対応を変えたら嫌われた?そしたら前と同じように接するのがいちばんにゃ!」
まさか。セクハラをしろというのか。
だがセクハラを辞めてから余計に嫌われた気がするのは確かだ。
アルバコアが何を思っているのかは分からないが、俺はとりあえず明石の言う通りにすることに決めた。
次の日、挨拶ついでに向こうから足早に歩いてきたアルバコアに軽く抱きついて尻を揉んだ。
俺はそのまま直ぐに「はは、なんてな」と言って手を離した。そしてとても驚いた。
アルバコアは泣いていたのだ。
そして「うう〜!指揮官のバカー!へんたいー!」と涙声で叫ぶと俺の胸にとびこんで胸板をポカポカと両手で叩いたのだ。
そのうち、両手は俺の背中に回っていた。
ぎゅっと俺を抱きしめる腕は細くて、手は小さくて、でもくっついた身体も頬も含めて全てが暖かくて。
そのままアルバコアが泣きつかれて眠ってしまうまで、恥ずかしいことに母校のとある大通りで、俺たち2人は抱き合って立っていたのだった。
その日からアルバコアは変わった。
俺はいつものように隣を一緒に歩いているアルバコアにセクハラをする。
途端ビクっとしたアルバコアは少し下を向いてからセクハラをした俺の方に手を伸ばしてぎゅっと俺の腕を抱きしめる。顔は耳まで赤く目は潤んでいる。そして上目遣いで俺を見て言うのだ。
「指揮官のへんたい・・・」