彼が目を覚ました時、あらゆるものが彼に嘲笑を向けているように感じた。
培養液の中でガラス越しに見る世界はただでさえ歪んでいたのに、その向こうにいる者達は、彼に無感情で容赦の無い、侮蔑を込めた目で見つめていた。

ほどなくして、自分が実験動物の類であると気づいた彼は、あらゆるものに絶望し、とあるひとつの計画を立てた。
彼は生まれ落ちた記憶も、誰かと過ごした思い出も、何一つとして持っていない。
だから、何一つ大切なもののないこの世界を、ひとつ残らず壊してやろうと考えた。
幸い時間はたっぷりとあったし、そのために必要な力が自分の中にあるのは、周りの人間の言葉や実験の内容から伺い知ることができた。

そして、その計画は唐突に始まる。
繰り返される実験に耐えながら、彼が計画の最終段階のために自分の中の「炉」に魔力を溜め込もうとしていた時。
氷のように冷たい何かが、背中の中心を突き抜ける感覚があった。
大量の麻酔薬が自分の頚椎に流し込まれている――背骨に直結した太い針から注ぎ込まれる、何度と無く彼の意識を奪った最悪の薬に、彼はついに激怒した。

――もう俺に残っているのは、俺という意識だけだ。貴様達は、それも奪うというのか。

眼前の分厚いガラスに手を伸ばし、彼は手のひらから「自分の意識」を解き放つ。
それは赤い波動となってガラスを吹き飛ばすと、次にその場にあったあらゆるものを壊し、砕き、溶かし、燃やした。
圧倒的な破壊の奔流に、彼の正面にあった何らかの施設はただの瓦礫の山となる。

――なんて脆い。こんな奴らに、俺はいいようにされていたのか。

怒りと絶望に苛まれながら、遺骸と屑鉄の中に立ちすくむ彼は、砕け散った培養槽のガラスを拾い上げ、そこについていたネームタグをジッと睨む。