>>252
初代

夏の夜空を彩る大輪の花。

四季ある異界”和ノ国”に今年もこの日がやってきた。
国中の花火師達が己の腕を磨き、心血を注いだ一品で競い合う「大花火大会」だ。

国宝の花火師であり親友のサクラがこの日の為に用意した花火。
その出番を、縁側に座ってサーヤは待ちわびる。

傍らに居るのは、彼女が操る水の流れに沿って、空中を自由に泳ぐ”使役された金魚”たち。
新調した着物を見にまとい、彼女は金魚たちに問いかける。

「この日のためにこしらえた一張羅の着物」
「どや? はんなりしたええ色合いの着物やねぇ」

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夏を彩る非日常は露と消え、はにかむ少女の火照った頬を秋の予感が優しく撫でる。
時はめぐり、異界「和の国」に葉の色づく季節がやってくる。

祭りの余韻冷めやらぬ夜、手繋ぎ畦道を歩く二つの影。
水気を含んだ大気をかきわけ、豊かに実った稲穂の影から虫の音が響く。
新月の空に輝く幾億の星々、見上げた少女の横顔はどこか儚く……

「短い付き合いやったけど……あんたの名前、一応、覚えといたるわ」

いたずらっぽい笑顔の影で、小さなその手に力がこもる。
色とりどりの金魚たちが、もの言いたげに宙を舞う。
ぎゅっと握られた彼女の気持ちに想いが弾け、君の迷いは決意に変わる。

この夏はまだ、もう少しだけ、続く——