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不正なアプリを使い、有料番組を無料で見ることができる機器の販売がインターネット上で横行している。被害が相次いだ海外では取り締まり強化などで阻止が進むが、
日本では現行法で機器の販売を規制することが難しく、犯罪組織のターゲットになりつつある。放置すれば放送各社の損害が広がりかねず、対策が欠かせない。

視聴機器は手のひらサイズ。モニターに?ぐと、自動的にアプリが画面に表示される。ダウンロードして起動させると、日本のテレビ番組が映し出される。

NHKや民放、WOWOWやスポーツ、映画など有料チャンネルを含め計60近い番組がずらり。海外の番組も無料だ。利用者はテレビを買うより低価格で様々な放送が視聴できる。


テレビの不正視聴を巡り、日本の対策は遅れている

こうした不正は中国など海外の犯罪組織が運営し、日本を含め各国に配置したメンバーに様々な番組データを送らせ、アプリに配信しているという。機器の販売にも関与し、
相場は1台2万〜3万円。アプリは無料で、組織が独自に開発しているとみられる。

同様の被害は海外でも相次いでいる。機器は2016年ごろから、米国や欧州連合(EU)、台湾などで流通し始めたという。

有料放送が普及する欧米では無料視聴は死活問題となるだけに、米国の米連邦捜査局(FBI)は19年、販売業者を摘発。欧州司法裁判所も17年、機器での不正視聴は違法
と認定する判決を出すなど被害抑止に努める。

アジアでは台湾で被害が深刻化し、警察当局が18年6月、日本の番組などを不正配信していた6人を逮捕。19年には取り締まり強化を目的に著作権法を改正するなどし、
今年2月までに約38億円の利益を得たとされる大型組織を摘発した。

日本の対策は出遅れている。英語や中国語などに比べ、日本語の番組は視聴希望者が少なかったが、海外で取り締まりが進むなか、犯罪組織のターゲットは日本に移行しつつあるという。

今年9月までの約2年間で、大手通販サイト上で出品された機器は少なくとも約1130台。販売後にすぐに出品ページを削除する業者もあり、「確認された出品は氷山の一角」(放送大手)とみられる。

日本民間放送連盟や衛星放送協会などは20年11月、「不正ストリーミングデバイス対策協議会」(東京・港)を設立し、被害実態の調査や啓発に乗り出した。

担当者は「早急に対策をとらないと、有料放送のただ見が横行し、放送市場への実害が拡大する」と危機感を示す。

総務省も調査を始めた。21年度中にも国内外の被害状況などをまとめる予定で、担当者は「調査結果を受け、法改正を含めた対策を検討する」と話す。

ただ、文化庁の担当者は「規制は簡単ではない」という。視聴を可能にするアプリは著作権法に違反する可能性が高いが、機器自体を販売することは直ちに不正に当たらないためだ。
配信業者は海外を拠点としており、追跡調査も難しい。

協議会の岡本光正・代表理事は「機器の購入者はアプリの違法性をあまり認識していない」。

被害を食い止める有効策が限られる中、著作権に詳しい伊藤真弁護士は「安易な利用に歯止めをかける啓発を進めることが重要」と指摘。そのうえで業界だけでなく、
「国も違法性を周知する必要がある」と話す。

(サイバーセキュリティーエディター 岩沢明信)

プラットフォームの協力、流通防止に不可欠
「無料で世界各国のテレビをライブで見ることができます」。インターネットで製品名で検索すると、視聴機器の使い方や個人サイトの販売ページが表示される。大手通販サイトにも複数の出品が確認される。
機器について、大手通販サイト運営、楽天グループの担当者は「『権利侵害品』に該当し、『取り扱い禁止商材』に指定している」と話す。出品が確認され次第、その都度ページを削除しているという。
別の事業者も「犯罪目的とみられるものは出品を禁止している」と説明する。
ただ、「出品の削除を依頼しても、通販業者が対応せず、取引が成立してしまうケースは少なくない」(不正ストリーミングデバイス対策協議会)。
流通防止に向け、対策協議会の岡本光正・代表理事は「販売ルートの中心となるプラットフォーム事業者の協力が欠かせない」と訴える。