売れたくて。テレビに出たくて。何より、春日と漫才をやりたくて。来る日も来る日もネタを書いた。稽古をした。それでも、この年のM−1は2回戦敗退だった。
今日は、重要なオーディションがある。気持ちを切り替えて、がんばろう。なんて、俺にはないポジティブな気持ち。
春日の姿がない。オーディション会場に、春日の姿が見えない。
開始まであと15分・・10分・・5分・・
俺は、春日のケイタイに電話をした。
“ この電話はお客様の都合により・・ ”
なんで、こんなときにケイタイ止められてんだよ!!!
結局、春日は遅れて会場にやって来た。俺たちの出番は・・・飛ばされていた。
「春日!お前、なんで遅刻したんだよ!!」「申し訳ない。」
「申し訳ない、じゃねーよ!お前、今日、大事なオーディションだって分かってねーのかよ!」「申し訳ない。」
「なんなんだよ!春日ぁ!!」「申し訳ない。」
俺が、何を言っても「申し訳ない」としか答えない春日。俺は、ブチ切れた。
「もう解散だ!!!」
俺は、会場を飛び出し、原付を走らせる。何度目だろう。春日に解散を告げるのは。
悔しい。悔しくて、たまらない。
オーディションに出れなかったことじゃない。俺だけなのか?必死なのは。売れたいと思ってるのは。春日。お前は、どう思ってんだよ。
いつか言ってた、「今の暮らしで十分幸せだ」って台詞。お前は、今でもそう言えんのか?
気づけば、俺の2m後ろを春日の原付が走っていた。追いついてくるわけでもない、一定の距離を保ちながら。
「なんなんだよ・・」
俺は、そうつぶやいて原付を止めた。
「言いたいことがあるなら、言えよ!!」
俺は、メットをはずして、自分でも驚くくらいの大声を出していた。
「本当に、春日と解散するんですか。」
春日もメットをはずして、俺にそう問いかける。春日の顔を見ると、なぜだか俺は涙が止まらなかった。
「お前とやりてぇに決まってんだろ!!」
「ありがた〜〜い!」
そう言って、春日も号泣した。