℃-ute七姉妹物語シーズン3
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℃-ute七姉妹物語とは?
・芸スポ板に立った「鈴木愛理写真集発売スレ」にて、何故か「こんなドラマが見たい」という妄想談義が盛り上がり誕生。
・基本設定は「℃-uteの七人が姉妹だったら?」のみ
あとの設定は書き手次第で自由に。何でもありで描いていきましょう。
・「こんなシチュエーションは萌える」的なネタ投稿も歓迎!
・お話進行時以外は ℃-ute関連なら多少のスレ違いでもOK。 先人に敬意を表し誕生経緯コピペ (鈴木愛理写真集発売スレより)
516 名無しさん@恐縮です 2007/05/19(土) 23:10:17 ID:YJRklwbw0
>>512
漏れも
℃-uteは舞美がリーダーのおかげで仲良し姉妹って感じ
ベリは女子中学生の仲良しグループって感じで内部で陰口とか
すごいんじゃないかと疑ってしまう
517 名無しさん@恐縮です 2007/05/19(土) 23:14:25 ID:0+zmcOMGO
>>516
姉妹に近い雰囲気があるのは同意
昔あややとかミキティがやってた美少女日記みたいに℃-ute7人でミニドラマやらないかな
母親が他界、父親が海外出張で残された7人姉妹が明るく毎日を暮らすベタな青春物語とか
518 名無しさん@恐縮です 2007/05/19(土) 23:16:45 ID:YJRklwbw0
>>>517
>母親が他界、父親が海外出張で残された7人姉妹が明るく毎日を暮らすベタな青春物語
やべぇ、すっごい見てみたいwww
舞美が7人分の洗濯物干してる姿とかマイマイが家出する話とか想像してしまったw 520 名無しさん@恐縮です 2007/05/19(土) 23:33:22 ID:YJRklwbw0
>>517
やべぇ、妄想がとまらないw
nkskが学校で勘違いからいじめにあって落ち込むのをみんなで慰めたり、
愛理が男の子に告白出来ずにいるのを姉妹で背中押したりするんだろ?
マジ見てみたい
521 名無しさん@恐縮です sage 2007/05/19(土) 23:46:45 ID:7o70uFDZ0
アニメ「てんとう虫の歌」の℃-ute版か
522 名無しさん@恐縮です 2007/05/19(土) 23:50:03 ID:0+zmcOMGO
>>520
いや、そこまでは考えてなかったw
でも7人ともキャラがバラバラだから脚本は確かに書きやすそうだな
どうせなら
興味半分で電話を立ち聞きしたことから舞美が年上の男と不倫してると誤解した妹たちが心配して探偵気取りで舞美を尾行・相手の男を叱責するも、お相手だと思っていた男は実は舞美のバイト先の店長だった。
みたいなベタベタな話がいいな
523 名無しさん@恐縮です 2007/05/19(土) 23:56:57 ID:0+zmcOMGO
>>522の続き
「迷惑かけちゃってごめんなさい、お姉ちゃん…」
落ち込んでひたすら謝る妹たち
「本当に迷惑だよ…もう恥ずかしくてバイト行けないよ!」
怒った様子の舞美
さらに落ち込む妹たち
「でも…みんな心配してくれてありがとね。うれしかったよ。」と優しく声をかける舞美
パッと笑顔になる妹たち
「よ〜し、それじゃあ早く帰ってご飯にしよっか!」
525 名無しさん@恐縮です 2007/05/20(日) 00:00:27 ID:YJRklwbw0
>>522-523
オマイ天才・・
>>521
そういえば「てんとう虫の歌」も7人兄弟だっけ
「ひとつ屋根の下」もそうだが、ああいう系統の話って最近見かけないな
527 名無しさん@恐縮です 2007/05/20(日) 00:14:52 ID:/t3lPlt6O
>>521
そのアニメのことは知らなかったんだがさっきWikiで調べたら俺のイメージにぴったりだった
ただ貧乏暮らしの要素はなくても良いかな
海外出張中の父親から生活費は送られてきているということで
533 名無しさん@恐縮です 2007/05/20(日) 00:29:21 ID:u4v3X0sI0
>>517
最高だな、そのドラマ
キューティー探偵事務所よりも面白そうだ
イベント内でやってくれないかなぁ
534 名無しさん@恐縮です sage 2007/05/20(日) 00:31:58 ID:7SH/uNtO0
その昼ドラ 7姉妹物語 見たいお!>>517
535 名無しさん@恐縮です 2007/05/20(日) 00:35:13 ID:u4v3X0sI0
美少女日記のドラマは正直微妙だったけど、>>517のドラマはマジに面白そう
541 名無しさん@恐縮です sage 2007/05/20(日) 00:45:26 ID:xFOxjC7t0
長女は舞美なんだろうな 舞美姉さんの争奪戦が凄そうだな
542 名無しさん@恐縮です 2007/05/20(日) 00:54:11 ID:/t3lPlt6O
岡井ちゃんとマイマイは舞美姉ちゃんの取り合いで喧嘩しそう
550 名無しさん@恐縮です sage 2007/05/20(日) 01:45:56 ID:/t4o6vRl0
妄想好きだから姉妹モノも考えてみたけど
姉妹だと年齢設定がむずかしいよ
特に愛理なかさきカンナ千聖あたり
574 名無しさん@恐縮です 2007/05/20(日) 12:08:45 ID:u4v3X0sI0
>>550
漏れのイメージでは
長女 舞美(17歳 高2 母亡き後、妹達の母親代わりを務めるべく奮闘するがドジな一面も。妹達を叱るときもかみまくり。)
次女 えりか(16歳 高校中退 クールな現代っ子に見えて実はナイーブな一面も。なんだかんだ文句を言いながらいつも姉や妹をフォローしている。)
三女 早紀(15歳 中3 現実主義の優等生で姉や妹のことを誰よりも心配している。買い物上手で家計をやりくりするのが得意。)
四女 栞菜(14歳 中2 ちゃっかりした性格でイケメンに目がない。他人の色恋話にも目がない。家族のムードメーカー的存在。)
五女 愛理(13歳 中1 女の子らしく優しい性格。あがり症で普段は大人しいが、歌が大好きでマイクを持った途端に性格が豹変する。)
六女 千聖(12歳 小6 男勝りで気が強く、いつもクラスの男子とケンカしては必ず勝利して帰ってくる。家族のトラブルメーカー的存在。)
七女 舞(11歳 小5 奔放な性格で姉妹のマスコット的存在。最年少ながら鋭い指摘で家族のピンチを救うこともたびたびある。趣味はサングラス集め。)
七姉妹ドラマは栞菜の夢
(※℃-ute DVD MAGAZINE vol.4より)
从・ゥ・从:舞美「あたしたちが一緒のクラスになることないけどさあ、ドラマとかでやってみたいよね」
ノk|‘−‘): 栞菜「姉妹やりたい!」
从・ゥ・从:舞美「ねー、やりたいよねー。ちょっと、それ夢!」
ノk|‘−‘) :栞菜「姉妹でおんなじ学校がいい!」
ノソ*^ o゚):早貴「楽しそうヤバーイ!!」
ノk|*‘ρ‘) :栞菜「七人全員が姉妹で、学校が一緒で、七人しか住んでないの家に…」
栞菜の「ドラマで七姉妹やりたい」発言その2
(※ハロプロやねん2008年8月4日放送より)
Q:自分が番組を作れるとしたら、どんな番組がいいですか?
自分が出演するドラマとかでもいいですよ。
ノk|‘−‘):栞菜「……なんか、七人のさあ、ドラマ作りたくない?なんか姉妹みたいで」
リ ・一・リ:千聖「あー、家族物語」
ノk|‘−‘):栞菜「『姉妹物語』かな」 ※シーズン1・エピソード一覧
・長風呂えりかちゃん(えりか)
・ナッキーの選択 (早貴)
・ホワイトボード (愛理)
・たこ焼きクルリ (早貴×えりか)
・ショートカット (千聖+愛理)
・特製カレー (ALL)
・るてるてずうぼ (舞美)
・負けないで (えりか)
・梅の花の咲く頃に (えりか)
・Mother Tells (舞+千聖)
・雨の日は (愛理)
・ゴールデン初デート(愛理×栞菜)
・みずいろの物語 (舞美+早貴)
・夏の夜の怪 (ALL)
・超にょう力 (愛理+千聖+マイ+早貴+栞菜)
・季節がめぐるように・・・(早貴×栞菜+熊井くん)
・ワン・モア・タイム(マイ×舞美)
※シーズン2・エピソード一覧
・プレイス (七姉妹+メグ)
・愛理'sパレット(愛理)
・キューティーセブン(七姉妹戦隊)
・16歳の恋なんて(舞美)
・大きな愛でもてなして (七姉妹+転校生)
・今度はそっち (えりか)
・イメージカラー(未完)
・キュートなサンタがやってきた (七姉妹ビギンズ)
・なっきぃのアンテナ(早貴×舞美)
・不思議な出会い(愛理×カッパの川太郎)
・不思議な出会い〜番外編〜 (愛理×カッパの川太郎・川太郎視点バージョン)
・イタズラ (舞美×ちさまい)
・いつでも (千聖×舞)
しばらくさぼってたけど、次に描きたいテーマが見つかったので自分で立てちゃいました。
逃げられないように、またタイトルの予告だけでも
・銀幕に舞う人は美しく(仮)
これから、前スレと共に消えたエピソードをのんびりコピペでもしながら、
全力で仕上げたいと思ってます。
新しい(羊)でもしばしお付き合いを。
12月24日、時間はお昼を少し回ったころ――、
「あー、マイちゃんあっちあっち、あのチキンも美味しそうだよ!」
「待ってよ千聖、まだこっちはお菓子見てるんだってば!」
クリスマス用の装飾で彩られた、地元の駅前にある小さなショッピングセンターの食品売り場。
親子連れなど、たくさんの買い物客で混み合う人波の中に、千聖とマイの二人はいた。
――今日は、クリスマスイブ。
家では、舞美と愛理が今晩のパーティーのために、協力して手作りのケーキを制作中だ。
そのため、千聖とマイともう一人(?)が、今年はパーティー用の買い出しを任されている。
「ねえ、ちっさー、今日はチキンはいらないって!」
カートを押し、二人の後を少し遅れて歩いていた早貴が声を掛ける。
「えー!?だってこれ美味しそうだよ?」
「でも、向こうでも準備はしてるって言ってたじゃん、たしかチキンも用意してくれるって」
「そっかあ」
千聖が少し不満そうに言う。
今年のクリスマスイブは、去年に続いて、千聖たち姉妹が縁のある児童養護施設へ遊びに行き、
そこでみんなでパーティーを開くことになっていた。
早貴が話を続ける。
「……それに、ちっさーちょっと買いすぎ!もうカートがいっぱいじゃん」
「違うよ、これはマイちゃんがいっぱい入れたんだってば!」
「千聖だよ!」
千聖に追いついたマイが声を荒げる。
「マイちゃん!!」
「千聖!!」
「どっちでも一緒!!……ああ、やっぱりついてきてよかったよ」
早貴が大きくため息をついてみせる。
とにかく気前のいい千聖と、人のお財布からお金を出させるのが得意なおねだり上手のマイ。
そんな二人にお財布を任せると、いつも相乗効果で無駄遣いが加速してしまう。
そのため、お目付け役として早貴が必要なのだ。
「でもさ、人数だっていっぱいいるし、やっぱりお菓子とかたくさんあったほうがいいじゃん」
千聖が言った。
今年は、千聖や早貴たち姉妹が五人、訪れる施設には、友達になったユウちゃんという名の、
千聖や愛理と同じ年齢の女の子と、他に五人の子供たち。三人の先生たちの計十四人がいる。
「大丈夫、これだけあれば充分足りるよ。舞美ちゃんと愛理も待ってるし、レジへいこ」
「ちぇ、はーい」
千聖とマイが声を合わせて答えると、早貴がカートをレジ前の長い列の最後尾に着ける。
「混んでるから、あっちで待ってるね」
混雑するレジを早貴とマイに任せて、その場を離れた千聖は、
(でも、仕方がないんだよなあ、……だって、お買い物は楽しいんだもん)
と、心の中で少しの言い訳をしてみる。
そうだよ、それに自分のお買い物は、基本的に誰かを喜ばせたいからなんだよな。
そのために使うお金は、別に無駄遣いなんかじゃないと思う。
レジを見る。
列は長く、並んでいる人のカートの中身も多いため、早貴たちのレジ打ちはまだ済まない。
少し退屈になった千聖は、ぼーっと辺りを見回してみる。
そして、
「あ!」
横一列に並んだレジの向こうに、赤と緑と白い綿で飾られた特別なコーナーを見つけた。
そこへ歩いていき、千聖は並んでいたお菓子入りのサンタクロースの赤いブーツを手に取った。
「……うわ!これ、懐かしい!!」
思わず声を出してしまう。それを手にしただけで、何だかテンションが上がってしまったみたいだ。
白くて細かい網に包まれたお菓子が、ブーツの口の遥か上にまで溢れている。見えているのは、
普段も買えるようなお菓子ばかりなのに、この赤いブーツに入っているだけで、何でこんなに
特別なものに見えるんだろう。見ているだけで、すごくわくわくしてしまう。
まるでクリスマスの魔法みたいだ。
(……そうだ。だって、これ、小さいときに欲しくてしかたがなかったんだ)
千聖は、ずっと昔のことを思い出した。
お買い物に来て、お菓子の入った赤いブーツを、ずっと見上げていた小さいころの自分。
それでも“こんなもの”すらも買ってもらえず、怒声に近いがなり声に急き立てられて、
ときには頭を叩かれて、その場を離れるしかなかったあのときのクリスマス――。
「千聖!」「ちっさー、お待たせ!」
レジを終え、両手に買い物袋を下げたマイと早貴が声を掛けてきた。
「……もう二人とも、遅いってば!」怒る千聖に
「混んでたんだから仕方ないじゃん!」マイが言い返す。
しかし、強気な言葉と裏腹に、悲しい思い出に捕らわれて涙が出そうになったときに、
救いの声を掛けられたようで、千聖は少しほっとする。
「ごめんごめん。さ、行こ!」
早貴が二人を促し、その場を後にしようとする。
すると、
「ちょっと待って」
千聖が言い、後ろを振り向く。「……千聖さあ、実はこのブーツも買いたいんだ」
お菓子入りのブーツが並んだ棚を指差す。
「ええ?」
「まだ買うの?」
「うん……お願い、千聖が自分のおこずかいで買ってもいいから!」
千聖の哀願するような目に、マイが「……しゃーない」と答える。
早貴が「うん、じゃあ……いって来(き)!」笑顔で答える。
「……ありがとー、じゃあ待ってて!」
千聖が、ブーツを六つ両手で抱えると、そのままレジへ向かった。
無駄遣いは、決して自分のためじゃない“他人思い”の千聖を、実は知るマイと早貴がそれを見守る。
少しして、
「えへへへへ、買ってきちゃった。みんな、喜んでくれるかなあ?」
施設で待つ子供たちの数である、六つのブーツを入れた大きな袋を下げて千聖が戻ってきた。
「さ、今度こそ行こ」
早貴が言い、千聖も満足げに頷く。
帰ろうと、赤いブーツが並んだ売り場の横を再び通りかかったとき、千聖はその子とすれ違った。
幼稚園くらいの年齢だろうか、この季節には、もう寒いんじゃないかと思える、薄くて、たけが短い、
いかにも着古したような上着姿の女の子が、お菓子の入った赤いブーツをじっと見つめている。
千聖は立ち止まり、そして、目を奪われた。
(……あのときの、千聖みたいだ)
千聖は、いたたまれない気持ちになって女の子を見つめる。「……千聖?」早貴とマイが、
立ち止まっている千聖を振り返る。しかし、千聖の様子を見て、それ以上の声が掛けられない。
そのまま、ほんの少しの時間が過ぎた。
そこに、小学校の中学年くらいだろうか、やはり上等とはいえない洋服を身に纏った男の子が
やってきた。女の子を見つけて「……行くぞ」とぶっきらぼうに声を掛けて、その手を握った。
手を引かれて、その場を去ろうとしている女の子が、振り返ってずっとブーツを見つめている。
「……ねえ、ちょっと待って」
いきなり声を掛けられた男の子と女の子が、怪訝そうな顔で千聖を見上げる。
「これさあ、よかったらあげるよ」
千聖が、下げていた袋から赤いブーツを一つ取り出し、それを女の子の前に差し出す。
ブーツを受け取った女の子が驚きの表情でそれを見ている。「……でも」男の子が口を開きかける。
「いいよいいよ、クリスマスだもん。あ、お兄ちゃんにもあげるね」
千聖が笑顔で男の子にもブーツを渡すと、とまどっていた女の子も千聖を見て笑顔になる。
その顔を見て(あはは、よかった!)と千聖は嬉しくなった。
しかし、次に険しい表情で男の子が口を開くと、その言葉に、千聖の気持ちが一気に打ちひしがれた。
クリスマスイブの楽しい気分が、一瞬で吹き飛ばされてしまった。
―――――――――――――――――――――――――――――――
「ただいま……」
玄関を開ける、千聖の声が力無く響く。
「おかえり、ちっさー!」
「ねえ、また買いすぎちゃったりしてないでしょうね?」
リビングへ入ってきた千聖を出迎えた愛理と舞美が、手に何も持っていない千聖に「え……!?」と
驚きの声を上げる。
「……ねえ舞美ちゃん、千聖は今日パーティーに行かない」
「えええ……!?」
「……千聖は、今年はプレゼントも何もいらないから……」
千聖は、そういうとリビングを出て、どたどたと音を立てて二階への階段を駆け上がっていった。
「待ってよ、ちっさー!!」
いっしょに帰ってきていたマイが、抱えていた大きな荷物をどんっとテーブルに置き、
千聖に続いて二階へ上がっていった。
「え、え、え、ちょっと!?」愛理が戸惑い、「ねえ、ちっさー、どうしちゃったの!?」
舞美が心配気に、千聖がいる二階の天井を見上げた。
「実はね……」
舞美と愛理の横に、サンタクロースのブーツが六つ入った袋を抱えた早貴が立っていた。
早貴は、さっき横で見ていた千聖と男の子の様子を二人に話しはじめた――。
「いいよいいよ、クリスマスだもん。あ、お兄ちゃんにもあげるね」
そう言って千聖が男の子にブーツを手渡したとき、男の子が口を開いた。
「いいです、いりません。すいません……ありがとうございました」
男の子は、自分がもらったブーツを千聖に返すと、深く頭を下げた。そして、
女の子が持っていたブーツを「ほら!」と取り上げて、それを千聖に差し出した。
「え!?……ねえ、遠慮しなくてもいいよ」
千聖が、少し戸惑いながらも笑顔を作り、女の子に再びブーツを渡そうとする。
しかし女の子は、下から千聖と男の子の表情を見比べて、それに手が出せないでいる。
「いいよお、あげるってば」千聖の言葉に、男の子は「いえ」と首を横に振る。
その頑なな態度に、千聖が少し困った顔になる。しばらく軽い押し問答が続いたあと、
「もう、いらないって言ってるじゃん!……オレらが、貧乏だからって……バカにすんなよな!!」
「ええ……!?」
男の子が怒気を含んだ荒い口調で言うと、女の子の手を強引に引いて、足早にその場を
去っていってしまった。「ちっさー……」早貴とマイが、ポツンと立ちつくす千聖に近寄る。
千聖の、笑顔の消えた表情が、少し青ざめて見えた。
「そんなことがあったんだ……」
早貴の話を、神妙な顔で聞いていた舞美が言う。
「でね、マイちゃんと二人で励ましながら帰ってきたんだけど、ちっさー、
ずーっと俯いたままで、何にも喋んないんだもん……」
「……で、帰ってきて、落ち込んでアレかあ」
舞美が、再び天井を見上げる。
「でも、ちっさーは親切で言ったんでしょ?それなのにさあ、バカにすんなは言い過ぎだよ!」
ずっと心配そうな顔で話を聞いていた愛理が、次には我が事のように憤ってみせる。
「……そうだよね、千聖は悪くないんだし、元気出してもらわなきゃ。
だって今日は、せっかくのパーティーなんだし」
舞美が、テーブルの上のケーキと、たくさんのお菓子に目を向けて言った。
「ねえ、ちっさー、そんなに落ち込まないで元気出してよ」
舞美が、二階の自室のベッドに潜り込み、布団の中で膝を抱えて横になっていた千聖に話しかける。
傍らに座る早貴と愛理とマイが「そうだよ!」「ちっさー!」と思い思いに声を掛ける。
「ちっさーは、もちろん悪気があった訳じゃないんでしょ?そんなに気にすることないって」
「……うん」
布団の中から、小さな声が返ってくる。
「じゃあ、いっしょにパーティーに行こうよ。……ほら、今年はえりも栞菜もいないのに、
千聖までいなかったらホームの子供たちが寂しがるよ?」
「うん。……そうだね」
被っていた布団をめくり、千聖が顔を出した。
―――――――――――――――――――――――――――――――
お出かけの準備を終えた、午後三時近く――。
千聖たち五人は、手作りのケーキと、用意したパーティーグッズやたくさんのお菓子、
六つのサンタのブーツを持ってバスに乗った。
バスの中では、みんなが努めて明るく振る舞い、接してくれてるのが千聖にはわかった。
みんなに、気を使わせているのは悪いと思う。いつものように明るく笑おうとする。
それでも、会話と会話の、ほんの隙間にも千聖の表情は沈んでしまう。
昼間の男の子の言葉が、頭から離れてくれない。
どうやら、そんなに簡単に気持ちは切り替えられないようだ。
「おお、みんな、よく来てくれたなあ」
バスを降りた五人を、白い頭の年配の男性と、千聖と同じ年頃の女の子が出迎えてくれた。
千聖たちが“おとうさん”と呼び慕う人、小さかった千聖たちを預かり、“姉妹”として
育ててくれた虹沢と、彼が現在営むホームの“長女”であるユウちゃんだ。
「おとうさん!ユウちゃん!」
思わぬ出迎えに、みんなが笑顔になる。「みんな、いらっしゃい!」ユウが両手を振って答える。
去年、初めて訪れてから、何度か遊びにきていて、ユウちゃんとはすっかり仲良くなった。
「ごめんね、寒いのに待っててくれたんだ?」
舞美が訊くと、
「ううん、お買い物のついでに、そろそろ来るんじゃないかってバス停に寄ってみたの。
そしたらちょうど」
ユウは、小脇に雑誌が入った大きさの書店の包みを挟んでいた。
「さあ、行こうか」虹沢が笑顔で言う。「他の子たちも、みんな楽しみに待ってるんだぞ」」
促されて、みんなも笑顔でうなずく。そのまま、みんなで歩いていると、
「……ねえ、千聖ちゃん、今日はどうかしたの?」
千聖の方を向き、ユウが訊いた。
「え……、どうかしたって、何で!?」
「だって……いつももっと馬鹿みたいに元気に笑ってるのに」
「ちょ、……馬鹿みたいにって」
「あ、ごめんね、つい本音を」
ユウが、悪戯っぽい笑顔を見せた。
大人しそうに見えたユウちゃんは、仲良くなっていくにつれ、その可愛い外見とは裏腹に
言葉に遠慮が無くなっていった。それでも、許されるキャラをユウちゃんはしている。
「別に、何もないって」
遠慮をする仲ではなくなったことで、やはり千聖もぶっきらぼうに答える。
そこで始めてユウも「そう……」と真面目な顔になる。その顔に、少し千聖の心が痛む。
でも、仕方ない。せっかくの楽しいイブに、こんなことをユウちゃんに言うつもりはない。
ユウちゃんの気持ちまで暗くしてしまう。 ユウちゃんには、日をあらためて話して謝ろう、と千聖は思った。
少し歩いて、ホームに着いた。民家を利用した、グループホームと呼ばれる児童養護施設だ。
「みんな、来たぞお」
玄関を開け虹沢が声を掛けると、「わああ!」という歓声とともに小学生の男の子が三人、
先頭を争うように飛び出してきた。そのあとを、小学生の女の子が一人、中学生の女の子が一人、
ゆっくりと歩いてきた。
「いらっしゃい!」と笑顔で言う女の子たちの丁寧な言葉を、
「千聖だあ!」「遊ぼう!」
千聖を見つけた男の子たちの大きな声がかき消した。
「ちょっと……お前ら、年上を呼び捨てにすんなよお」
千聖の言葉を、男の子たちは気にする様子もなく、ニコニコと笑っている。
……まったく、ユウちゃんといい、どうしてここの子供たちはみんな遠慮がないんだ。
でも、千聖は許してやることにした。だって自分も、言葉とは裏腹に、今はすごく笑っているから。
ひとまずの笑顔を見せた千聖は、昼間に出会った男の子と同じくらいの年頃の、この子たちの
屈託のない笑顔に感謝した。
それから千聖たちは、パーティー会場になっている広間へ通された。
去年と同じようにツリーが置かれ、クリスマスらしい飾りつけで部屋が彩られている。
長方形の低いテーブルを縦に繋げ、その上にたくさんのお菓子やパーティートイが用意してある。
ここでも「いらっしゃい」と、準備をしていた男女の先生に迎えられた。
「じゃあ、みんなが揃ったから、今年もメリークリスマスだ」
みんなでテーブルを囲むと、虹沢が嬉しそうに言った。
「待って待って、実は……ケーキを作ったの」
ユウと女の子たちがキッチンへ行き、手作りのケーキを手に戻ってきた。
「あたしたちも。はい、ケーキ、今年も作ってきたの」
舞美がケーキをテーブルに並べる。「今年は普通のケーキだけどね」虹沢を見て悪戯っぽく笑う。
「じゃあ、あれは今年はやらんのか?……ほら、去年のハンドベル」
「あ……ごめんね。今年は、愛理が何だか忙しくなっちゃって、練習ができなくて……」
舞美が言い、横で愛理が申し訳なさそうな顔をした。すると、
「知ってる!愛理ちゃん今度デビューするんでしょ?」
ホームの小学生の女の子が瞳を輝かせて言い、みんなが歓声を上げた。
歌手を目指していた愛理は、あえて普段着で、ある歌手オーディションに挑戦した。
結果はグランプリこそ逃したものの、愛理は最終選考まで残ることができた。そして、
研修生としてレッスンを受けることになった。現在、愛理を含む十数名がデビュー候補生として、
レッスンに励む日々が続いている。
「いやあ〜、そんなそんな……わたしなんて、まだまだだってば!」
照れて、手をバタバタさせて答える愛理を、さらにみんなで「ひゅー」と冷やかす。
そして、愛理をはやし立てる声が一段落したとき、
「……ハンドベル、本当はねえ、舞美ちゃんが無くしちゃったから今年はできないんだよ」
「ちょっと、マイっ……!?」
マイが、舞美の隠していたことをバラした。ホームのみんなが「えー!?」と声を揃えた。
「……ねえ舞美ちゃん、どうするの?あれ大事なハンドベルなんだよ!?」
さらに早貴が意地悪に問いつめる。
「帰ったら、もう一回ちゃんと探すってば。……でも、おかしいなあ!?
たしかに、あそこに片付けたと思ったのにさあ……」
「舞美ちゃん、ドンマイ!」
舞美のミスをバラした張本人のマイが白々しく励ます。その口の端が、ひくひくと上がっている。
(ダメだよ、笑っちゃあ……)とマイを見て千聖は思う。
でも、そういう千聖にも、マイの気持ちが痛いほどわかってしまう。
(……もう、笑ったらバレちゃうでしょう!)
早貴と愛理も、虹沢とホームの子供たちも、理由を知っているみんなの顔が少し笑っている。
狼狽している舞美ちゃんは可哀想だけど、ホントのことを伝えるのはまだ先みたいだ。
「いいじゃない。今年は、わたしがピアノを弾くから、『きよしこの夜』みんなで歌おう」
ユウの提案にみんなが賛成して、ユウが部屋の隅にあるピアノに向かう。
用意してあった小さなろうそくをケーキに立てて、火を灯してから、部屋の明かりを消す。
ゆらゆらと揺れるろうそくの炎が、みんなの顔をほのかに浮かび上がらせる。
厳かな雰囲気の中、ユウのピアノに乗せて、みんなの歌声が重なる。そして、
「メリー・クリスマス!!」
部屋の明かりが点くと、みんなで一斉にクラッカーを鳴らし、パーティーが始まった。
「いっぱい食べてね」と、サンタの帽子を被った舞美がユウと協力してケーキを切り分ける。
「お菓子もいっぱいあるからサ」早貴と愛理が菓子の袋を開けて並べる。マイに「千聖!」と
肘でつつかれ、「……これも、あるんだ」千聖が、サンタのブーツをそっと出す。
「うわあ!」「ありがとー!」「可愛い!」と、みんなが喜んで受け取ってくれる。
「ほら千聖、よかったじゃん」マイがこっそりと言い、「うん」と千聖が小さく頷く。
たくさんのチキンピースと、オードブル料理を盛り付けた大きな皿がいくつも運ばれてきて、
ケーキの横に並べられる。「わあ、美味しそう!」と、みんなが手を伸ばす。
「……ちょっと、君たちは千聖と遊ぶんでしょ?」
千聖が、ケーキをほお張っていた男の子たちに声を掛ける。
「あ、あれやろうよ!」千聖が置いてあったジェンガを指さす。「あたしもやりたい!」と、
小学生の女の子も加わり、みんなでテーブルの端にジェンガを積み上げる。
「負けた子はさあ、罰ゲームありだからね」千聖が嬉しそうに言い、子供たちが「えー!?」と
声を上げる。
「うはははは!!」ジェンガが崩れる音に続き、千聖の明るい笑い声が部屋に響く。
早貴と愛理が千聖の方を見て、ほっとしたように微笑んだのがわかった。
(今日は心配かけちゃってごめんね)と千聖は思う。これで、みんなはもう安心しただろう。
――でも、自分のこの気持ちはいつ晴れるんだろう。
嘘でも、こうして笑っていないと思い出してしまう。そして、落ち込んでしまうんだ。
再び、暗い気持ちに陥りそうになった千聖は、また無理に声を上げて笑ってみせた。
「ねえ、千聖ちゃん」
「ん……?」
パーティーが始まって、しばらく経ったころ、ユウが声を掛けてきた。
千聖と遊んでいた子供たちは、今はテーブルのご馳走やお菓子に夢中になり、それぞれが
散りぢりになっている。ユウは、千聖が一人になるタイミングを見計らっていたようだ。
「今日、元気が無かった訳、マイちゃんから聞いた」
……あの、おしゃべりめ。千聖が目で追う。視線に気付いたマイが、とぼけて顔を逸らせる。
「ああ、ごめんねさっきは。でも、もう大丈夫だから」
「うそ!」
「え……!?」きっぱりと言い切るユウに、千聖がたじろぐ。
「ねえ、何でそんな言い切れちゃうのさ?」
「だって、千聖ちゃんだけ、さっきからケーキもお料理も何も食べてない」
「えええ!?……何で、そんなとこ見てるのさ」
「手作りケーキだもん。食べて、美味しいって言ってもらえるかどうか気になるじゃない?
なのに、見てたら千聖ちゃんだけ食べてくれなかった。ケーキも、それからお料理も」
そうか。見られてたんだ。千聖は、少し驚いた顔でユウを見る。
ユウが続ける。
「ねえ、千聖ちゃんらしくないよ?そんなにいつまでも落ち込まなくてもいいじゃん。
千聖ちゃんは、その子たちのことを思って『あげるね』って言ったんでしょ?
だったらもういいじゃない。その男の子だって、きっといつかわかってくれるよ」
「ううん、そうじゃないの」
「え……!?」
「千聖が落ち込んでるのは……その男の子のことじゃないんだ」
「え、そうなの!?」
今度は、ユウが驚く。
「じゃあ、どうして?」
「もちろん、その男の子がきっかけなんだけどね…………」
千聖は、少し黙ったあと、(ユウちゃんになら、言ってもいいか)と口を開く。
「……ねえ、ユウちゃんは、サンタクロースって信じてる?」 やっと見つけました…
まとめサイトのURL変更とかできないのかなぁ あんまり更新できないから
もう「知る人ぞ知る」でいい気が
「サンタクロース……?」
「そう、サンタクロース」
「うん……信じてる。きっと、いると思うよ」
突然の質問に戸惑いながらも、ユウは真剣に答えてくれる。
「千聖ちゃんは……」そして、今度は千聖が訊かれる。「信じてないの?」
「千聖はねえ、信じてるよ。ずっと小さい頃から」
「うん」
「でもねえ、サンタさんって不公平なんだよ」
「え、どうして?」
「だってさあ、小さい頃ね、千聖の家にはサンタクロースが来てくれなかったんだ。
……お友達の家には、みんな来るのに、千聖のお家にだけ来てくれなかったんだ」
「…………」
「それはねえ、きっと千聖が悪い子だからサンタさんが来てくれないと思ったんだ」
「ええ!?そんなことないよ!」
「ううん、違うの。でね、ある年のクリスマスに、悔しくって、お友達と喧嘩しちゃったんだ。
『サンタなんかいないんだ』って。そしたら、家に帰って、いっぱい叱られたの。
『お前は悪い子だ』って」
けっして、思い出したくない昔のこと。千聖の胸の奥が痛くなる。
でも、ユウが黙って話を聴いてくれている。千聖は血を吐くように言葉を続ける。
「ごめんなさい、いい子になりますって謝っても許してくれなくて、いっぱいいっぱい
叱られて……」
「千聖ちゃん……」
「それから少しして、千聖は虹沢のおとうさんの家で暮らすことになったんだけど……」
千聖は、チラリと向こうにいる虹沢を見る。ユウには説明しなくてもわかるだろう。
現在、虹沢が営む養護施設に暮らすのがユウを含む子供たちだ。
「そしたら、千聖にもサンタさんが来てくれるようになったんだ」
「そう……よかったじゃない千聖ちゃん」
「うん。でね、舞美ちゃんや、なっきぃや、みんながいて、毎日もすごく楽しくなって」
それまで辛そうだった千聖の顔に少しの笑みが戻る。「うん」ユウもつられて笑顔で頷く。
「……でもさあ、やっぱりサンタさんは不公平だと思ったんだ」
「どうして?」
「だって千聖はさ、いい子になったわけじゃないんだよ?
みんながいると楽しくって、つい調子にのっちゃって、いっつもマイちゃんと喧嘩したり、
悪戯して愛理を泣かせちゃったりして、ちっともいい子になってないのに、サンタさんが
来てくれるんだよ?」
「それは……関係ないよ」
「ううん、千聖はさあ、ずっと悪い子だからサンタさんが来てくれないと思ってたの。
それなのに、いい子じゃないのに、サンタさんが来てくれるんだよ?やっぱり不公平だって」
「……いいじゃない。許してあげなよ。サンタさんだってきっと忙しかったんだよ。
それに、千聖ちゃんは悪い子じゃないよ。だって、それまでずっと我慢してきたんでしょ?
サンタさんは、そんな千聖ちゃんを見つけて、助けてくれたんだよ」
「ううん、違う。それじゃ、やっぱり不公平だよ!」
千聖の声が強くなり、ユウが驚く。
そのまま下を向いた千聖が、次の言葉を小さく捻り出す。
「じゃあ、何で千聖ばっかり?」
「え?」
「千聖ばっかり助けてくれて、他の子は助けてくれないんだろうって思ったの」
千聖の頭に、昼間に出会った兄妹が浮かぶ。小さかった自分を思い出す。
「千聖にはさあ、サンタさんも来てくれるようになって、優しいみんながいつも助けてくれて、
欲しかったお菓子のブーツだって、何も考えずにいっぱい買えるようになって……」
「千聖ちゃん……」
「でも、日本にはまだサンタさんが来てくれない子って、きっといると思うんだ。
ううん、それだけじゃなくって、欲しいものも買ってもらえなくて……もしかしたら
ご飯も食べられないっていう子だって、いっぱいいるかもしれないんだ……」
日本の、いや世界のどこかに、小さい頃の千聖のように苦しんでる子がいるかもしれない。
それを想像するだけで、千聖の胸が苦しくなる。
「……それなのにさあ、千聖だけが助けてもらって、パーティーなんていって楽しんじゃ
いけないって思ったんだ」
目をつぶると、涙が滲む。いけないと思って、すぐに手の甲で拭う。
周りを見渡す。舞美と早貴が、虹沢のおとうさんと笑いながら話をしている。愛理とマイと
子供たちが、きゃあきゃあ言いながらプラスチックの小さな樽に剣を刺して遊んでいる。
みんなが楽しそうでよかったと思う。でも、自分は今日は楽しまないと決めた。
テーブルの上の料理を見る。でも今日だけは我慢しようと、ぎゅっと口を結ぶ。
ユウが、そんな千聖を見て口を開く。
「千聖ちゃん……マリア様みたい」
感心したように言うユウに、千聖は疑問をぶつける。
「え、誰それ?歌手?」
「えええ、知らないの!?」
「えええって、ねえそんなに可笑しい!?」
「だって、クリスマスなのに」
「クリスマスだろうと知らないものは知らないじゃん!ねえそれ誰よ!?」
千聖の声が大きくなると同時に、お腹の音がぐぅと鳴った。
「ぷっ……あはははは!!」と、二人が同時に笑い声を上げる。
「……もう、人が真剣に悩んでたのに、笑うなよお!」
「千聖ちゃんだって、笑ってたじゃない!」
そのまま少し笑ったあと、顔を見合わせる。二人とも、ほっとした表情をしている。
千聖が先に口を開く。
「ありがとうユウちゃん。聞いてもらったら、ちょっと楽になったみたい」
「じゃあ、もうそんなこと考えないで、お料理も食べて、パーティー楽しもうよ」
「……ごめん、今日はやっぱり無理だよ」
「どうして?きっと世の中には、どうにもならないことっていっぱいあるんだよ?」
「うん……でも、どうしても考えちゃうんだ」
少し俯いた千聖が、そのまま黙ってしまう。今度は、ユウから口を開く。
「ねえ千聖ちゃん。だったら、自分にできることを考えればいいんだよ」
「自分に……できること?」
「そう、きっとプレゼントって、形のある物だけじゃないと思うんだ」
「例えば?」
「夢とか、希望とか……って、あはは」
くさい台詞を言ってしまったと思ったのか、ユウが照れを誤魔化すように笑って続ける。
「わたしさあ、去年、この家にサンタさんが来たとき、すごく驚いて感動したよ?」
「去年?」
「うん。七人の可愛いサンタさんが、突然やってきたんだ」
ああ、千聖たちのことかと気が付く。
去年は、舞美ちゃんの提案で、初めてここを訪れて、サンタの衣装でハンドベルを演奏したんだ。
「だから、今年はわたしたちがお返しをしようって思ったんだし」
何にも考えないでコピぺしてたら前スレで間違えたのをそのまま貼ってしまってた・・・
以降正しい19〜を貼ります
あと、基本人稲の一人よがりのスレでも「羊の下の方でこっそりやってる分にはいいか」と思ってたんですが
スレッド数がこれだけ減っちゃうと「やってていいのかな・・・」と多少気まずかったりしますね
でももうちょっとやりたいです 「……もう、人が真剣に悩んでたのに、笑うなよお!」
「千聖ちゃんだって、笑ってたじゃない!」
そのまま少し笑ったあと、顔を見合わせる。二人とも、ほっとした表情をしている。
千聖が先に口を開く。
「ありがとうユウちゃん。聞いてもらったら、ちょっと楽になったみたい」
「じゃあ、もうそんなこと考えないで、お料理も食べて、パーティー楽しもうよ」
「……ごめん、今日はやっぱり無理だよ」
「どうして?きっと世の中には、どうにもならないことっていっぱいあるんだよ?」
「うん……でも、どうしても考えちゃうんだ」
少し俯いた千聖が、そのまま黙ってしまう。今度は、ユウから口を開く。
「ねえ千聖ちゃん。だったら、自分にできることを考えればいいんだよ」
「自分に……できること?」
「そう、きっとプレゼントって、形のある物だけじゃないと思うんだ」
「例えば?」
「夢とか、希望とか……って、あはは」
くさい台詞を言ってしまったと思ったのか、ユウが照れを誤魔化すように笑い、
そして付け足す。「……感動とか」
「感動……!?」
「わたしさあ、去年、この家にサンタさんが来たとき、すごく驚いて感動したんだ。
すごく可愛い七人のサンタさんが突然やってきて」
ああ、千聖たちのことかと気が付く。
去年は、舞美ちゃんの提案で、初めてここを訪れて、サンタの衣装でハンドベルを演奏したんだ。
「だから、今年はわたしたちがお返しをしようって思ったんだし」
ユウが、みんなの方を向いて言う。テーブルの上で、黒ひげ人形が樽から飛び出し、
キャアと言う歓声が上がる。それを合図にしたかのように、
「ユウちゃん」
テーブルの向こうの虹沢から声が掛かる。「そろそろ、やろうか?」
ユウが「うん!」と頷き、「じゃあ、見ててね」と千聖に言って立ち上がる。
同時に、テーブルを囲んでいたホームの子供たちが立ち上がる。「えへへ」「じゃあね」と
悪戯っぽく笑い、この部屋と隣室を隔てるふすまを小さく開けて、その暗い隙間へと消えていく。
「え……なに!?なに!?」
ユウを含む子供たちが全員隣室へ消え、閉じられたふすまを見て舞美が声を出す。
そんな舞美を、早貴と愛理とマイがニヤニヤしながら見守っている。事情を知っているのは、
千聖も同じだ。「いいから、見てなさい」と虹沢が舞美に言う。少しの時間が経って、
「じゃーん!」
男の子の声と同時に、勢いよくふすまが両側に開く。部屋が、明かりの点いた隣室と繋がる。
視界に、真っ赤なクロスで覆われた横長のテーブルが飛び込んでくる。テーブルの上には、
ハンドベルが横一列に整列をするように置かれ、その後ろにはユウたち六人の子供が並んでいる。
「今年は、去年のお返しに、わたしたちがハンドベルを演奏したいと思います」
代表してユウが言う。みんな、サンタの帽子を被り白い手袋をはめている。
「え!?え!?え!?……うわあ!」
事態を呑みこんだ舞美が驚きの声を上げる。そして「ねえねえねえねえ……あ、あれ!?」
周りを見渡して、驚いているのが自分だけなのに気付く。「……何で!?」
「早貴たちは知ってたもん。ねー」早貴が言い、愛理が「うんうん」と頷く。
「でも、どうして知ってるの?」不思議そうな顔で舞美が訊く。
「だって、あれ、ウチのハンドベルだもん」
マイが、ハンドベルを指で差して答える。
「どういうこと?だってあれ、わたしが無くしちゃったって……」
「ううん、舞美ちゃんが片付けたのを、こっそり貸してあげてたの」
「ええ!?じゃあ……」
「うん、舞美ちゃんは無くしてなんかいないよ」
マイが愉快そうに言い、舞美と千聖を除くみんなが悪戯っぽく微笑む。
「えええ!?ねえ、ひどいひどいひどいひどい!!」
ようやく事態を把握した舞美が声を上げると、
「去年のクリスマスには、驚かされたからな。仕返しだ」
その意地悪な言葉とは裏腹に、虹沢の温和な顔が優しくほころぶ。そして、
「ごめんね舞美ちゃん、わたしがみんなにお願いしたの。去年、舞美ちゃんたちのサンタと
ハンドベルに感動しちゃって、今年はどうしても自分たちがサンタになってお返しをしたくて」
ユウの言葉に、舞美が「え、そんなそんな……」と少し照れて答える。
「……ね、嬉しいじゃん舞美ちゃん」早貴が舞美の顔を覗きこむ。舞美の顔に笑みが戻ったのを
確認して、ユウに目で合図をする。ユウが、小さく頷いて口を開く。
「去年の感動を伝えたくて、この曲を選んでみんなで練習しました。
『サンタが街にやってきた』聴いてください」
ユウの声をきっかけに、子供たちの演奏が始まった。ハンドベルの、澄んだ綺麗な音色が
部屋の中に響く。やっぱりハンドベルの音はいいな、と千聖は思う。
千聖は目をつぶり、メロディに聴き入る。歌詞が、自然と頭に浮かぶ。
『――さぁ あなたからメリークリスマス 私からメリークリスマス
サンタクロース イズ カミング トゥー タウン 』
昼間、出会った兄妹を再び思い出す。
今夜、あの子たちの家に、ちゃんとサンタさんは来てくれるのかな?
『――ねぇ 聞こえてくるでしょ 鈴の音がすぐそこに
サンタクロース イズ カミング トゥー タウン 』
あの子たちだけじゃない。きっと世界中にいる、様々な問題を抱えて悩んでいるような
子供たちのところにも、サンタさんは公平に来てくれるのかな?
『――待ちきれないで おやすみした子に きっとすばらしいプレゼントもって
さぁ あなたからメリークリスマス 私からメリークリスマス 』
ううん。サンタさんは来てくれても、もしかしたら問題は解決しないのかもしれない。
さんざん悩んでみたけれど、自分にしてあげられることもありそうに無い。
それでも……、
『――サンタクロース イズ カミング トゥー タウン 』
それでも、
いつか、みんなが幸せになって、笑って過ごせる日がくるといいな、と千聖は願う。
演奏が終わり、変わりにみんなの拍手と歓声が鳴り響く。部屋が、温かい雰囲気で包まれる。
千聖も、いつの間にかこぼれていた涙を拭って思い切りの拍手をする。
無事に演奏を終えられた子供たちが、拍手を受けて満足気な笑みを見せている。
代表して「ありがとう」と答えたユウが、「……舞美ちゃん、ごめんね。ハンドベル、
帰るときには持って帰ってね」と舞美に頭を下げる。「ううん、こちらこそありがとう」と、
舞美が素敵な演奏へのお礼を返す。そして、
「えへへへ、どうだった?」
ユウが千聖の横へ戻ってきて訊いた。「なんかさあ、素晴らしかった。なんか、感動しちゃった」
うまく言葉にできないのがもどかしいけど、千聖は感じたままを口にする。
「うん。音楽っていいよね。人を感動させられて、元気にしてあげられて。
……ねえ千聖ちゃん。まだ元気が出ない?落ち込んだまま?」
ユウの質問に、少し考えて、「ううん」と首を横に振る。「でも……」さっき、ユウが言った
言葉を思い出す。「自分にできることなんて、やっぱりわからないよ」
そのとき――、
「じゃあさあ、今年も去年みたいに、みんなでカラオケやろうよ!」
演奏の余韻で高揚した気分そのままに、早貴が声を上げた。
「待ってて、新しいのを買ってもらったんだ!」と中学生の女の子が、部屋にあるテレビ台の
下から、コードに繋がった新しいマイク型カラオケを引っ張り出す。
「去年は、楽しかったからなあ。今年は、もっと何でも歌えないかと思って買ったんだ」
そして「奮発したんだぞ」と虹沢が自慢げに言う。
「わたし、愛理ちゃんの歌が聴きたい!」
パーティー前に愛理のデビューを訪ねた女の子が、手を上げて言った。「いやいやいやいや、
ちょっとちょっと……」マイクを握らされた愛理が「じゃあ、順番だよ」と照れながら言う。
「ねえ千聖ちゃん」
こちらでは、ユウが千聖に話しかける。
「……前にね、愛理ちゃんの夢の話を聞いたとき、すごいって思ったの」
「歌手に、なりたいってこと?」
「うん。それで、歌で世界中の人を感動させられるようになるといいなあって」
何だそれ、初めて聞いたぞ。
愛理は、ユウちゃんに、そんな話をしていたのか。
自分には何も言ってくれなかったことに少し腹が立ったが、すぐに思い直した。
きっと自分が、ユウちゃんにしか落ち込んでいる理由を言えなかったのと同じだ。
近すぎると、恥ずかしくて言えないことがあるんだ。
「わたしも、愛理ちゃんみたいになりたいなあって思ったんだ」
そういえば、去年カラオケで聴いたユウちゃんの歌も上手かったなあと千聖は思い出す。
テレビから愛理が選んだ曲が流れ出した。二人で拍手をする。愛理の歌が始まった。
「……もしさあ、そんなことができたら、すごいと思わない?」
歌を聴きながら、ユウが千聖の耳元で言う。「そんなこと?」聞き返す千聖の声が、
カラオケに音に負けないように少し大きくなる。
「ほら、あったじゃない。自分でもできること!」
「え……!?」
「歌を届けて、世界中の人を感動させられるんだよ?それって、本当のサンタクロース
みたいじゃない!!」
「ああ!!」
ユウの話を聞き、目の前で歌う愛理の姿を見て、千聖は気が付いた。
歌を届けて、人を感動させる。音楽は、人の気持ちを癒し、救うことができる。
今日の自分が、救われたように。
「ありがとうユウちゃん、自分ができること見つかったわ!」
「うん!」
「愛理を、応援すればいいんだね!」
「え……!?」
愛理の歌が間奏に入った。千聖は大きな声で「よお、愛理ィ!!」と拍手をする。
「やだ、ちょっと千聖!!」愛理がしきりに照れている。でも構わない。
今は自分たちの前だけでも、愛理ならきっと日本中、いや世界中にその歌を届けられるはず。
自分は、家族としてそれを、ずっと応援していってやろうと思う。
急に心のもやが晴れた気がした。テーブルの上を見る。オードブルの残りが、自分を呼んでいる
気がした。「……お腹、空いたあ!!」千聖は、残りの全てをたいらげる勢いで手を伸ばした。
「……じゃあ次、ちっさあーー!!」
チキンにかぶりついていた千聖を、歌い終えた愛理がマイクで指名した。
「えええ!?今、せっかく食べてるのにい!」
「ダメだよ、早く早く!」
愛理が「さっきの仕返しだよ」というような嬉しそうな顔で手招きをする。
周りのみんなの拍手と歓声にも急き立てられ、千聖は仕方なく席を立った。
ユウにマイクの操作を教えてもらい、歌いたい曲をテレビ画面で探して決める。 「あ、もうちょっとエコーを効かせた方がいいかも」
ユウが、何かマイクのボタンを操作して千聖に渡す。
「あーあーあー、ねえ別にそんな変わらないよ?」
「いいからいいから」
ユウが満足そうにテーブルの向こうの席に戻る。千聖が選んだ曲のイントロが流れ始める。
その、ほんの少しの間に千聖は考える。
(結局は、愛理頼みなのかあ……、自分は、応援だけしかできないのか……)
「千聖ちゃん、ピース!!」
今度はユウが、携帯電話のカメラを千聖に向けた。こんなときでも、思わず笑顔でピースサインを
返してしまう自分が情けない。カシャッと音がしてフラッシュが光った。
応援するだけの自分、かあ……でも仕方がないのか。それが、ほんの少しだけ悔しくなった。
(じゃあ、せめて今日だけは、この歌だけは愛理に負けないように歌ってやろう!)
千聖は気合を入れて、マイクを口もとへと運んだ。
「千聖ちゃん、もう一枚、ピース!!」
ユウは、千聖に携帯のカメラを向けて二枚目の写真を撮った。
「必要な写真は二枚……全身写真と、バストアップはこれでよし、と」
千聖が握るマイクを見る。録音状態を示す赤いランプがちゃんと点いているのを確認する。
テーブルの下に置いていた書店の包みから、夕方買ってきた一冊の雑誌を取り出す。
女性アイドルが表紙を飾るオーディション雑誌の、応募用紙が綴じられている頁を開く。
(これは、わたしからのプレゼント。千聖ちゃんなら、きっと大丈夫だよ)
去年、カラオケでみんなの歌を聴いたときから思っていたこと――。
そして今、千聖の歌を聴いて“やっぱり”と確信を持つ。
(歌でみんなを感動させられるのは、きっと愛理ちゃんだけじゃないよ)
ユウは、応募用紙の名前欄に“千聖”とその名前を書き込んだ。
(……でも、来年は、きっとみんなライバルなんだからね)
頁を一枚めくり、二枚目の応募用紙に向かう。そこに、今度は“憂佳”と自分の名前を書き込み、
ユウは……憂佳は悪戯っぽく笑った。
作家1号さん乙です。
新作楽しみにしてますよ!
新規の作家さんとか出てこないかなぁ…。 気分転換にたまには雑談なんぞ
人もいないし、今まで遠慮していたトリップなんかを付けてみます
>>43
℃-uteとしての露出が皆無なのが痛いんですよ。ラジオは基本ピン+αだし。
現在のキャラと人間関係が掴めないと、ネタ書くのってすごくむずかしい気がします。
基本在宅の自分なんぞは、数ヶ月に一度のDVDのみで飢えを癒されてる状態です。
今のアップフロントさんでは、ベリキューのメディア露出なんてもう諦めてますけどね・・・。
そこそこ読んでくれてる人がいるなら、自分は愚痴ってないで書かなきゃですね。 お久しぶりです。
自分も新作書こうかなと思います。
まだまったく何も決めてないのでいつになるかわかりませんが…
七不思議が失敗だったので今度はがんばります。 >>45
もしログ持ってたら消えた前スレのエピソード貼り直して
失敗したと思ったところはこの機会にこっそり直しちゃえばいいんですよ トリ間違ってたので直しました。
>>46
元データ消しちゃって持ってないんです…orz ・・・こっそり
℃のblog楽しくていいね
おかげで数年振りに新しいネタ帳なんて作っちゃった
GW中に何とか一本仕上げたいす cuteのPV見たら、5人しかいなかったんだけど、誰かやめたの? >>49
2009年春?に有原栞菜 脱退
秋には梅田えりか 卒業
ですね
事務所も移籍した梅さんの現blogに栞菜との写真も出てくる
元気そうで嬉しい GWは家空けるので書き込めないけど携帯からwktk見てますね! 間に合わなかったらごめんね。でも今回真面目にやってます。
今もテキスト開いて頭抱えて構成の真っ最中す。これができると「おおお、このオチ早く書きてえ!」ってなるんだけどな。
お話は前にチラッと予告したネタ>>11テーマは『舞美と映画』で。
帰ってきちゃったじゃないですか!w
まったりいつまでも待ってます よかった、あんまり怒られなかったw
もう書き込めるかな?何かずっと規制くらってました。
あとネタも八割の出来(あと一ヶ所の展開)でちょっと詰まってます、ごめんなさい。
ド素人の癖に、ラストにどんでん返しやサプライズで「あ!」と言わせる話が書きたくて、
伏線を序盤から丁寧に貼りたいので、いわゆる「見切り発車」でスタートができないんス・・・
今回真面目にやってるのでもうちょっとだけ待ってて下さいな 「舞美と映画」ってより「舞美と舞台」の時期になりました 「らん」見たよ。まいみんかっこよかったなあ。
「冬の怪談」と同じで、まるでまいみんそのままのキャラだったw 2ヶ月も誰も書き込んでないんだね。
作家さんはどこへ? こっそりと独り言書きこんでみる
クリスマスに向けて、リハビリ兼ねて短編を一本描きたいんだけど
クリスマスの夜の待ち合わせ場所でいいロケーションってないかなあ?
そのままヤマ場の舞台になるようなとこ
そんな経験無いんで見当もつかないや
とにかくクリスマスまでに頑張ろ 『――――ただ、会いたいだけ 』
12月のある日、
舞美の携帯電話のディスプレイに表示された、長い長いメール。
その中の一文に込められた、痛いほどの切ない気持ちを、舞美は汲み取る。
(……よし!)何かを決意した表情で、舞美は静かに携帯を閉じた。
クリスマスイブ、さらにそのイブである12月23日。
舞美が、メールを受け取って数日が経った日の夜のこと――。
「ねえみんな、明日のクリスマスイブなんだけどさあ……」
舞美が話しかけた。
「なあに舞美ちゃん?」
「どしたン?」
早貴とマイが顔を上げて答えた。千聖はツリーの飾りつけに夢中だ。
暖房がよく効いた自宅の暖かいリビングでは、愛理を除く三人、早貴と千聖とマイが
明日のパーティーの準備に励んでいる。
芸能のお仕事をしている愛理は、今夜は帰りが少し遅い。
「今年はさあ……あたしだけ別でもいいかな?」
「……えええー!?」
みんなが、揃って驚きの声を上げた。
「ほら、どうせ明後日はみんな一緒にパーティーできるんだしさ、イブは別々でもいいかなって」
舞美たちは、毎年クリスマスには姉妹みんなで縁のある児童養護施設を訪問し、
そこで子供たちとパーティーを開くことになっていた。
去年と一昨年は、イブの日に訪れていたが、今年のイブには愛理にお仕事が入り、
遅くなるかもしれないというので、愛理がオフである25日に行こうという事になった。
空いたイブの日は、愛理が帰ってから五人だけで自宅で祝おうと決めて準備をしていた。
「……ほら、あたし前から言ってたじゃん。もうクリスマスは別々でもいいんだよって」
舞美が話を続ける。
もう、みんな年頃の女の子だ。きっと、家族と過ごす以外のクリスマスが大切になってくるはず。
そのため、毎年、クリスマスが近づくと「別々でもいいんだよ」と舞美は言ってみる。
その度に、みんなは「何で?」「みんなでパーティーしようよ」と答える。
それを聞くたびに、舞美は保護者として、嬉しいような、淋しいような、複雑な気持ちになる。
でも「じゃあ、今年はデートに行くね」と答えられても、きっと同じ気持ちになるに違いない。
それを、まさか自分が一番に「抜ける」と言い出すとは思わなかった。
「舞美ちゃん、友達と約束しちゃったの?」
早貴が訊いた。
「でもさあ、それならもっと早く言ってくれればよかったじゃん。そしたらウチも
友達と遊ぶ予定入れたのにィ」
マイがふくれて言い、「ちょっとぉ、マイちゃん!」千聖が怒ってみせた。
そこで舞美が、
「ううん、友達じゃないの。…………もっと大事な人」
口を開き静かに言うと、「え……ええええっ!?」みんなの驚きの声が、一際高く大きく重なった。 よかった。読んでる人がいたーーー。
分割してせいぜい5レスくらいの短ネタだと思って書き始めたら、
みんな勝手に動くわ喋るわ、結果話が膨らむわで倍以上の長さになりそうなので
一気に書くのは諦めて前のように連載形式でやります。
完成させるまでライブDVD買わないって決めてたから楽しみにしてたダンススペシャルが
まだ観れないぃ。
USTREAMもつべもずっと我慢してたのに。
早貴が「えええ、何それ何それ!?」千聖が「うそお!?」と慌てる中、
「ねえ、相手はどんな人よ?」マイが興味深そうな顔で舞美に訊く。
「それは、ねえ、……うふふふ」
舞美が、ついニヤけてしまい答えられないでいると、
「舞美ちゃん、顔、気持ちワルイ!」
早貴に言われてしまった。
でも、舞美は怒る気になれない。
「ちょっとお、みんな彼氏とか出来たら隠さないって約束してるじゃん」
千聖が責めるように言った。
「そうだけど、さあ、……うふふふふ」
笑い続ける舞美に、みんながあきれた顔になった。
人に言わせると、“気持ちが顔に出てしまう”タイプらしい。
嘘がつけない性格だと、自分でも思う。
なので“彼氏”じゃない人のことは、やはり答えようがない。だから、やっぱり笑うしかない。
それに、こういう事で問い詰められるのは、何だか思ったよりも気持ちがいいものだ。
舞美は、もう少し焦らして楽しんでみようと思った。
「ねえ舞美ちゃん、それってウチらも知ってる人?」
マイに訊かれて、「あー、もしかしたら、会ったことがあるかも」舞美は少しとぼけて答える。
「わかった!劇団の人?」
千聖が訊いた。舞美はまた「さあ……ねえ」と、とぼけて見せる。
この夏には、舞美が所属して出演する舞台にみんなを招待した。
楽屋にも招いて挨拶をしているので、みんな劇団の人の顔だけは知っている。
そのとき、
「ねえ舞美ちゃん……別に見栄張らなくてもいいんだよ?」
早貴が心配するように舞美の顔を見上げて言った。
「え……!?」
「もういいんだって誤魔化さなくても」
「誤魔化すって……!?」
舞美が訊き帰すと、
「そうだよ、18歳になっても家族でクリスマスイブを過ごすのは、
別に恥ずかしいことじゃないんだからね?」
マイが答え、今度は舞美が「え……えええっ!?」と声を上げる番になった。
「舞美ちゃん、ウチらは舞美ちゃんとイブを過ごすの全然嫌じゃないんだから、
いくつになっても遠慮なんかしなくていいんだよ?」
マイの言葉に早貴が頷き、千聖が『ああ、そうかあ』と納得する顔になった。
「ちょ、ちょっと待ってよ!みんな、そんなふうに思ってたの!?」
舞美が慌てて言うと「そりゃあ」「ねえ」「うん」とみんなが頷いた。 また抜けがある・・・
>この夏には、舞美が所属して出演する舞台にみんなを招待した。
○この夏には、舞美が所属して出演する劇団の舞台にみんなを招待した。
かなあ・・・
続きは多分明後日
「じゃあさあ……今までクリスマスはみんな一緒がいいって言ってたのも、もしかしたら
あたしのため?」
「だってさ、舞美ちゃんなんかいつまでたっても彼氏ができないしさ、
せめてクリスマスはウチらが一緒にいてあげないと可哀そうじゃんか」
舞美の問いにマイが答える。早貴と千聖がニコニコと笑っている。
「ねえ……ちょっと、待ってよお」
舞美の体から、力が急に抜けていく。
あああ……、今まで保護者ぶって色々心配していたのが急に馬鹿らしく思えてきた。
それに、彼氏はできないんじゃないもん。まず、みんなの事を第一に考えて作らないんだから。
言い返したくなるのを、舞美はひとまず堪える。
「ね、舞美ちゃん。だから明日はウチらと一緒にパーティーしよ?」
再びマイが言った。
「いいもん、あたし明日デートに行くんだから。嘘じゃないもん、
ちゃんと相手だっているんだから!」
ふくれた顔で舞美が捲くし立てる。「舞美ちゃん、まだ言ってる」早貴が言った。
「またあ」千聖があきれて笑い、「本当!?」マイが訊いた。
「本当だもん!……じゃあ、証拠を聴かせてあげるから」
舞美は自分の携帯電話を取り出すと、登録している番号の一つを呼び出し通話ボタンを押した。
「証拠……!?」みんなが首を傾げているとき、リビングに置かれている電話の電子音が鳴った。
みんなが微笑む。「なあんだ。舞美ちゃん、どこ掛けてんの!?」と千聖が電話を取る。
すると、
『あいりだよーー!!』
受話器の向こうから、テンションの高い自己紹介が響いてきた。
『今、お仕事終わったからねえ、今から送ってもらって帰るから。じゃあねーー!!』
愛理の、いつもの『今から帰るねコール』だ。「愛理だった」と千聖がみんなに説明する。
そのとき、
「あ、もしもし私です。舞美です」
舞美が話し始める。みんなが舞美に注目すると、舞美がマイを手招きで呼ぶ。
そしてマイの耳に携帯を当てる。
『もしもし、舞美ちゃん?……どうしたの?』
携帯から聴こえる男性の声に、「男のひとー!?」マイが驚く。
舞美はすぐにマイの耳から携帯を戻すと、自分の耳に当てる。
「あの、明日の、イブの話なんですけど。はい、待ち合わせの確認を……」
みんながあ然とする中、「ええ、夕方の六時に、場所は……」舞美は話を続ける。
「はい……じゃあ、また明日」舞美は携帯を切ると、勝ち誇ったようにみんなを見る。
「ホントだったのー!?」マイが声を上げる。「ねえねえねえ、今の誰よ!?」千聖が慌てた
テンションで言う。最後に早貴が「ねえ、どんな人なのさ!?」興味深げな瞳を見せた。
「……いや!」舞美が小さく答える。
「え……!?」
「もう絶対、誰にも教えてあげないんだから」
「えーー!?」
冷たい舞美の返事に、不満げな三人の声が合わさる。
「ちょっと、舞美ちゃん」
「ダメったらダメ!もう、絶対に内緒!」
舞美は突き放すように言うと、そのまま携帯を片手にリビングを後にした。
自室へ戻り、ベッドへ腰掛けると、何かの緊張が解けたかのように「ふう」と息を吐く。
果たして、上手くいっただろうか。話は、ちゃんと聴いていたかな?
少し、不安になってくる。
リビングを出るときの、みんなの顔を思い出してみる。
特に、あの悪戯っ子二人の表情はどうだっただろう?
……舞美は、そこで少し笑った。
あの様子なら、多分、大丈夫だ。あとは、全て明日だ。なるようになれ、だ。
舞美はそこで、携帯の、さっきとは違う番号を呼び出す。
耳に当てて、コールが鳴るのを聴く。
「あ、もしもし、あたしだけど。明日はね……」
そして、さっきとは違う、親しげな口調で話し始める――。
――――――――――――――――――――――――――――
Scene 2・キュートなサンタの待ち合わせ。
〜早貴、千聖、マイの待ち合わせ〜
「見つけた!ねえ、舞美ちゃんあそこにいるよ!」
遠くから舞美を見つけたマイが興奮して言うと、「シー!みんな隠れて!」と千聖が言い、
側に建つ大きな柱に隠れる。「え!?待って待って!」連られて早貴が慌てて身を隠した。
12月24日、夜――。
舞美が携帯電話で待ち合わせの約束をしていたのは、地元で一番大きな駅。
中央改札の前には、白くて太い円柱が等間隔に並んで高い天井を支え、そのまま隣に建つ
大きなショッピングモールと繋がる、連絡通路を兼ねた大きな広間がある。
広間の中央には、華やかな電飾で彩られた大きなクリスマスツリーがあり、
そのツリーの前に舞美はいた。多くの人が行き交う広間のツリーの周りには、舞美以外にも、
ここを待ち合わせ場所に選んだらしい沢山の男女が立っている。
そして、上に備えられたスピーカーから、絶えることなくクリスマスソングが聴こえてくる中、
白いマスクで口元を覆った早貴、キャップを目深に被った千聖、お気に入りだったサングラスを
引っ張り出して掛けているマイという怪しい三人組が、ツリーから十数メートル離れた柱の陰に
隠れて、舞美をこっそりと見守っている。
「ねえ、舞美ちゃん、着くの早くね?」
顔を出し、舞美を覗きこんでマイが言う。
やってくる舞美の彼氏を見逃しちゃいけないと、舞美が電話で話していた約束の時間の二十分も
前に来た早貴たちだったが、舞美がすでに待っていたのには驚いた。
「今日のデートがさあ、よっぽど楽しみなのかな?」
千聖が言うと、
「……ねえ、やっぱりこんなの止めない?舞美ちゃんが可哀相かも」
早貴がそっと提案をする。
「また出たよ、なっきぃのへたれがぁ」マイがあきれた顔をして、「うんうん」と千聖が頷く。
「あー、またそれ言ったあ、ねえ何でそれくらいでへたれ!?」
いつも言われる言葉に早貴が怒ってみせるが、やっぱりいつものように相手にされない。
憤る早貴に構わずにマイが続ける。
「だってさあ、舞美ちゃんがいけないんじゃん。別に、ウチらに隠すことないし」
「そうだよ。それに、あんなに必死に隠されると、どんな人かどうしても知りたくなるじゃん」
千聖が答えて言った。「でもぉ……」とマスクの下の口を尖らせる早貴が、「あ!」着信音に
気が付き、着ていたコートのポケットから携帯電話を取り出して開く。
「愛理から返信来たよ。えー……、『お仕事が終わったらこっちに向かうね』だって!」
愛理から来たメールを読み上げると、マイが「ほら、じゃあ問題無いじゃん」と得意気に言った。
「ウチらはさあ、別に舞美ちゃんを見張ってる訳じゃないじゃん。愛理とここで待ち合わせ
してるだけだし」
「うん、たまたま待ち合わせ場所が一緒になったんだからね」
千聖が、マイに続いて言い聞かせるように言う。
「……だから、舞美ちゃんが彼氏と一緒にいるところを見つけちゃって、みんなで周りを
取り囲んで冷やかしたりしても、わざとじゃないんだから」
「うん。そのまま舞美ちゃんのデートにくっついて行って、舞美ちゃんの彼氏に豪華な
ディナーとか奢ってもらうことになっても、それは偶然なんだから仕方ないんだよね」
千聖とマイが、悪戯好きのいかにも子供っぽい笑みを浮かべながら言った。
「そうだけど、さあ……」
早貴が言葉を濁す。早貴が、気乗りしないのには大小二つの理由があった。
「それに、なっきぃも昨日は喜んで賛成してたじゃんか」
千聖が早貴に向かって言う。「……うん」早貴が小さく頷く。
早貴は、昨晩のことを思い出す。
舞美がリビングを出たあと、電話で話していた待ち合わせ場所と時間にみんなで待ち伏せて、
芸能人みたいにカメラで激写してやろうよとか、それじゃ可哀相だからクラッカーを鳴らして
祝福してあげようぜとか、その夜はいろいろなアイデアで盛り上がった。
結局、ただ偶然を装って待ち伏せて、舞美ちゃんの彼氏を品定めしたあと、思い切り冷やかして
やろうという話だけで落ち着いた。
一晩が明け、顔を会わせた舞美は、普段通りを装ってはいるものの、笑顔もどこかぎこちなく、
「じゃあ、今晩は遅くなるからゴメンね」とだけ言うと、いつものアルバイトに出掛けて行った。
そんな舞美の様子を思い出し、そして今、目の間で待ち合わせのために立っている舞美を見て、
早貴の心には、急速に後悔の念が浮かんできている。
――早貴が、今日の待ち合わせに気乗りしない、大きな理由の一つだ。
そもそも、昨日は、何であんなことを言っちゃったんだろう?
「別に見栄張らなくてもいいんだよ?」とか、「誤魔化さなくてもいいから」とか……。
早貴が、まだ気付いていない自分の感情を探ろうとしていると、
「あ、ねえ見て!舞美ちゃん電話してるよ?」
マイが言い、みんなが陰から舞美を注視する。舞美は、いつの間にか携帯電話で話をしている。
「舞美ちゃんさあ、何か怒ってるみたいだね」
気付いた千聖が言う。「うん」早貴が答える。距離が離れていても、それは早貴にもわかった。
電話で話している舞美の顔が、何かを問い詰めるようで少し険しい。
普段、あまり怒ることがない舞美の、見せたことのないその表情に、早貴は少し戸惑う。
「……舞美ちゃん、誰と話してるのかな?」
早貴が疑問を口にすると、
「待ち合わせ相手がまだ来ないから、それで怒ってるんじゃない?」
千聖が答える。
「でもさあ、それは勝手じゃね?だって、待ち合わせの時間まで、まだ大分あるじゃん」
マイが自分の腕時計を見て言った。早貴も時計を確認する。たしかに、舞美が言っていた
約束の時間である夕方の六時まで、まだ十五分以上ある。
しかし、それより早貴には、マイが話した“勝手”と言う言葉が引っかかった。
舞美を見ると、ずっと話し続けている。表情は、さっきよりは幾分穏やかになった。
どうやら、電話の相手とは和解したようだ。早貴は、ほっとしたあと、少し複雑な気持ちになる。
何だろう、この感情は……?と早貴は考える。舞美ちゃんが怒ってないのは嬉しいはずなのに、
彼氏と仲直りができたと思うと、あまり嬉しく思わない。
そして、気が付く。これは“嫉妬”だ。
早貴は、昨晩のことを思い出す。
嬉しそうに『大事な人』の話をする舞美ちゃんを見てたら、何だか悔しくなっちゃったんだ。
それで嫉妬して、あんなことを言っちゃったんだ。
何で、嫉妬なんかしたんだろう。何で、悔しいと思うんだろう?
「舞美ちゃんには、いつまでたっても彼氏ができない」なんて千聖やマイと言いあいながら、
「仕方ない、クリスマスには、いっしょに居てあげなけりゃいけないな」とか言ってたくせに。
「舞美ちゃん、ずーっと喋ってるね」
マイが、少しあきれたように言う。舞美は、携帯で話し続けている。
たった今から会うはずなのに、会ったら、きっとたくさんお喋りだってするはずなのに、
何をそんなに話すことがあるのだろう?
「ねえ、よっぽど、その人のことが好きなのかな?」
茶化すでもなく、真面目な口調で千聖が言った。そうだ、と早貴は嫉妬の理由に気がつく。
自分たちは、舞美ちゃんの愛情を、無条件で一身に受け続けられると“勝手”に
思い込んでいたんだ。だけど、“親代わり”を勤めてくれている舞美は“親”じゃない。
一人の女の子なんだ。
早貴は、改めて舞美の表情を伺い見る。
舞美は、少し下を向き、何かを思い出すように瞳を閉じ、相手に語りかけている。
“誰か”を想う、優しい顔だ。
「……ねえ」
マスクを顎の下へずらして、再び“へたれ”と呼ばれるのを承知のうえで、早貴は話しかける。
「舞美ちゃんの邪魔するの、やっぱり止めない?」
すると、「そうしよっか、何かもう飽きちゃった」とマイが言い、「うん、思ったより
つまんないし」千聖もそう返した。
早貴は、(あれ……!?)と予想外の返事をした二人を見る。すると、
(鏡を見たら、今の自分はこんな表情をしてるのだろうな)と思えて、何だか可笑しくなる。
話す舞美の表情に、早貴は、もう不思議と嫉妬する気にはならなかった。
舞美があんなに好きだと思える相手なら、素直に一人の女の子として応援してあげよう、と思った。
きっと、みんな同じ気持ちじゃないかと思う。
「じゃあさ、もう何か温かいものでも食べて帰ろうよ」
千聖が両手を擦りながら言い、すっかり身体が冷えたらしいマイが身を縮めながら頷く。
「ダメだよ、だって愛理も呼んじゃったから、愛理が来るまでここにいなきゃ」
愛理に携帯で連絡を入れた早貴が答えた。「あ、そっかあ……」千聖が残念そうに言う。
「……もう、誰だよ愛理も呼ぼうって言ったの!?」
マイが、不機嫌さを隠そうともせず言い放った。
「マイちゃんじゃん!?」早貴が即座に答える。自分のせいにされてはたまらない。
「愛理との待ち合わせにすれば、舞美ちゃんを見張ってたことの言い訳ができるって」
「違うよ、ウチじゃないよ!千聖だよ」マイが言うと「マイちゃんだって!」千聖が反論する。
早貴が、今日は気乗りしなかった大小の理由の、小さい方の一つ。
すごく“くだらない理由”の方が頭をもたげてきた。“仲間割れ”だ。
「もう、いいじゃんどっちだって!」
早貴が、言い争いを止めない二人にあきれて言う。
「……静かにしないと、舞美ちゃんにバレちゃうよ?」
早貴の言葉に、二人が慌てて舞美の方を覗き見る。釣られて早貴も振り返り、
「……あ!!」
と三人が揃って声を出した。
行き交う多くの人の中、立っている舞美に向かって歩いてくる男性を見つけたからだ。
年齢が二十代の半ばから後半くらいに見える男性は、軽く右手を上げて真っ直ぐに舞美の正面に
向かって来ている。舞美は、男性の姿を確認すると、携帯を持った右手を下ろして、代わりに
左手を小さく上げ、掌を左右に振って答えた。
「ねえねえねえ、あの人どこかで見たことあるよね!?」
千聖が疑問を口にする。「うん」同意する早貴が頷く。
「あー!あれ、舞美ちゃんの劇団の人じゃん!!」
マイが興奮した口調で言った。
早貴も思い出した。以前、みんなで舞美の舞台を観に行ったときに紹介された人の一人だ。
たしか、名前を羽田さんといった。
羽田が舞美の前まで来ると、舞美はちょこんと頭を下げてからその顔を見上げた。
「なあんだ、舞美ちゃんの彼氏って、やっぱり劇団の人じゃんか」千聖が言い、
「ねえ、別に隠さなくてもいいのにさ」マイが何だか楽しそうに答える。
しかし早貴は、(あ・れ……!?)と二人の姿に何か違和感を感じる。
羽田が舞美にそっと顔を近づけ、その耳元で何かを囁くように言うと、舞美が『ぱあ』と
弾けるような笑顔を見せた。
「ねえ、あの二人、もうめっちゃ仲よさそうだよ!?」
千聖が、横に立つマイの腕を揺さぶりながら言う。「うんうん」マイが頷く。
「ねえ、どうするどうする!?」
「どうするって、もう邪魔しないって言ったじゃん!?」
「でもさあ……」
千聖とマイが言い合う中、早貴は改めて舞美と羽田を見て、違和感の正体に気が付いた。
下げられた舞美の右手には、さっきまで話していた携帯が、まだ閉じられずに握られている。
しかし、歩いてきた羽田は、振っていた右手にも、左手にも携帯を持っていなかった。
「待って、でも携帯が……」
言いかけるが、千聖とマイは何だか興奮して聴いていない。
その時、一人の若い女性が羽田に近づいてきて、履いていたブーツの先で羽田の脚を蹴り上げた。
「……え!?」それを見ていた早貴たち三人がまた揃って声を上げた。
「ねえ、何これ!?」
思わず早貴が言う。きっとみんなの頭にも?マークが渦巻いてるはずだ。
「もしかしてさあ、これ三角関係なん!?」マイが言った。「じゃあ……!?」千聖が訊く。
それを受け、最後に早貴が言う。
「これって…………修羅場!?」
脚を蹴られた羽田は、女性の方を振り返り、何かを弁明するように頭を下げている。
「じゃあ、どうするよ!?」マイが振り返って訊く。「どうするって……」早貴が戸惑い言う。
「……舞美ちゃんを助けにいかなきゃ!!」千聖が慌てて答える。
「えええ、マイやだよお……」
「ちょっと、マイちゃん!」
「だって……修羅場とか何か怖いじゃん」
“修羅場”という言葉の響きに怯んだのか、意外とチキンな“内弁慶”マイが尻込みをする。
「もう、人のことを“へたれへたれ”って言う癖に、自分の方がよっぽどへたれじゃんかあ」
さっきのお返しとばかりに早貴が言うと、
「だって、助けるっても何するのさ!?それに、舞美ちゃんの邪魔しないってさっき言ったし!」
へたれ呼ばわりされたのが悔しいのか、マイがムキになって答えた。すぐに千聖が、
「ねえ、それとこれとは話が違うじゃん!」と言い返し、仲間割れの第二ラウンド開始となった。
「でもさ……確かに恋愛の問題は、他人が口出しすることじゃないかも」
少し考えた早貴が、冷静な口調でそれに参戦すると、
「もう、なっきぃまで。舞美ちゃんは他人じゃないじゃん!……もういい、千聖一人でいくから」
「あ、待ってよ千聖!!」
早貴たちが止めるのも聞かずに、千聖が隠れていた柱から飛び出す。そして、
「……あれ、舞美ちゃんがいないよ!?」
千聖が二人の方を振り返り、不思議そうに言った。
「ええ!?」と早貴とマイも柱から顔を出し、さっきまで立っていたツリーの前から、
舞美の姿が消えているのに気付く。
「ねえ舞美ちゃんは……!?」マイが、思わず掛けていたサングラスを外し、
舞美がいた場所を凝視して訊く。「知らないよお……!」千聖が動揺しながら答える。
「……じゃあ、羽田さんは!?」
早貴が言うと、「……あ、あれ?」マイが歩いていく羽田の後ろ姿を見つけて指差した
その横を、先ほど羽田を蹴飛ばした女性が、羽田の腕に手を回して寄り添うように歩いている。
「え、ええええ……!?」
早貴たちが、まるで狐に化かされたような顔を、お互いに見合わせていると、
「……あなたたち、そこで何してるのッ!?」
後ろから、聞き覚えのある大きな声がして、三人が揃って「わああ!!」と大声を上げた。
――――――――――――――――――――――――――――
〜舞美の待ち合わせ〜
12月24日、クリスマスイブの夜――。
約束していた時間の前に、舞美は待ち合わせ場所に到着した。
大きなツリーの前に立ち、軽く辺りを見渡す。だけど、“二組”いる舞美の待ち人の姿は、
まだどちらも見えない。でも、それも当然だと思う。まだ、約束の時間までかなりある。
その前に、幾つかの確認しておきたいことが舞美にはあった。
舞美は携帯電話を取り出し、番号の一つを呼び出して掛ける。
呼び出し音を数コール聴いた後に、相手が出た。
『もしもし舞美ちゃん?どうしたの?』
「ううん、もう着いちゃったから。今どこ?」
『早くない?今、そっちへ向かってるとこだよ?』
「いいの。あたしが早く着きすぎちゃっただけだから。今、電車の中とか?」
『違うよ、歩いてるところ』
「そう」
よかったと舞美は思う。それなら、これから心おきなく話ができる。
舞美は、少し冷たく言い放つ。
「ねえ、それより、あれはどういうこと?」
『……あれって?』
「あのメールのことよ」
『メール……!?』
「ただ、会いたいだけ……とか何とか」
『何とかって…………』
いきなりの舞美の質問に、相手の言葉が少し途切れる。
『……もう、そのままだよ!ただ寂しくなって会いたいなと思ったから、書いただけじゃんか!』
少し、ムッとしているのがわかる。そのふて腐れている懐かしい顔が、容易に頭に浮かぶ。
舞美は構わずに、少しキツい口調のままで問い詰める。
「じゃあ、何であたしなの?」
『え……!?』
「知ってるんだから。“えり”とも会ってるんでしょ?」
舞美は、モデルという天職を得て、先に家から独立した“長女”えりかの名を口にする。
相手は少しの沈黙のあと、
『……うん』
それを素直に認めた。そして『……でも、それが?』と訊き返す。
「えりとは会えるし、あたしともこうして会える。それなのに、どうしてみんなとは会おうと
しないの?」
『それは……』
「わかってるんだから。会いたいっていうのは、あたしだけじゃないでしょ?みんなに
会いたいと思ってるんでしょ?じゃあ、何で……」
『それは……えりかちゃんと舞美ちゃんは別だよ!年上だし、まだ素直に甘えられるもん。
だけど、みんなは……」
そこまで言うと、相手はハッと気付いたように言う。
『まさか、みんなには教えてないよね!?今日、あたしと会うってこと』
「ううん、言ってない。男の人とデートだって、嘘付いて出てきたから」
『そう……』
舞美の言葉に、相手は安堵の息を吐く。
しかし、その裏に隠された幾ばくかの落胆を、舞美はしっかりと感じ取る。
“もう一組”の待ち人は、ちゃんと来てくれるだろうか?“羽田さん、お願いします!”と
舞美は心の中で小さく祈る。
『……他のみんなは、舞美ちゃんたちと違って年下だしさ』
舞美が少し黙っていると、通話の相手が話を続ける。
『ウチがしっかりして、面倒だってみてあげなきゃいけなかったのに、
最後まで迷惑ばっかりかけちゃって……』 「ねえ、そんな心配をしなくても、誰も迷惑をかけられたなんて思ってないよ?」
舞美が言うと、
『ううん、それだけじゃなくて……何だか怖くて』
「怖い?」
『みんなが、ウチのこと怒ってるんじゃないかって……」
通話相手が、小さく弱気な声を出した。
(この子は、相変わらずなんだから……)と、舞美は昔を思い出す。
基本的には明るい性格なのに、心配性で、ついつい考えすぎると、その答えはいつも
ネガティブな方に囚われてしまう。
「もう、何でそういうふうに思うの。怒ってるわけないじゃない」
『でも……』
「でもじゃない!」
『え!?』
強い口調で相手の言葉を遮り、
「もう、そんなことはどうでもいいの。
あなた自身の気持ちはどうなの? みんなに会いたいの? 会いたくないの?」
舞美は、少し強引に訊ねてみる。
『そりゃあ……会いたいと思ってるよ』
やっと、素直な感情を返してくれた“彼女”に、「うん。それでいい」と舞美は薄く微笑み、頷く。
『……久しぶりに、叱られた』鼻をすする音と共に聴こえた彼女の声が、心なしか少し
嬉しそうに思えた。
「じゃあさ、あたしだけじゃなく、今度はみんなと会おうよ。愛理がさ、メールをしても
ちっとも返事をくれないって悲しんでたよ?」
舞美が言うと、
『でも……』
「あ、まだ言うか」
『違うの!そんなんじゃなくて……』
彼女が慌てて答えた。「じゃあ……何?」今度は慎重に聴いてあげようと、舞美は優しく訊ねる。
『だって……みんなに悪くて』
「悪いって、何が?」
『だって、ウチにだけ……ウチ一人にだけ、本当の家族がいるなんてさ』
「本当の、家族……」
舞美は、彼女が……三女だった栞菜が家を離れたときのことを思い出した。
あたしたちは、ある児童擁護施設で出会い、そこで姉妹のように育てられた。
だから、みんな血は繋がっていない。
そんなある日……2008年の初めの頃のこと。
突然に、栞菜の肉親を名乗る人が、彼女の許へ訪ねてきた。泣きながら「いっしょに暮らそう」と
謝る母親を、栞菜は頑なに拒み続けた。
しかし舞美たちは、みんなで栞菜を説得した。それから苦悩と葛藤の日々を過ごした栞菜は、
たくさんの涙を流しながらも、みんなとの別れという傷みを乗り越え、実の両親に引き取られて
暮らすことを選んだ。
桜の花が咲く頃に、みんなが育った町を見下ろす場所にある、丘の上の公園で、
舞美たちは栞菜と別れた。
「もう、まだそんなこと気にして悩んでたの?」
『だって、みんなを差し置いて、自分だけが幸せになったみたいで……』
離れても、みんなを想い悩んでいた栞菜を、舞美は愛しいと思う。
舞美は、栞菜に優しく語りかける。
「……ねえ、じゃあ栞菜に一つだけ訊きたいことがあるの」
『なに?』
「栞菜はさ、あたしたちと暮らしているときに、自分を『不幸だ』なんて思ってた?」
『まさか、そんな訳ないじゃん!」
栞菜が慌てて否定をする。
「うん。もちろん、みんなが『あたしは不幸だ』なんて考えて暮らしてると思ってないよ。
あたしも、自分を不幸だなんて、思っていないし」
『うん……』
「どうしてだか、わかる?」
舞美は、少し俯き、そっと瞳を閉じて言う。
「栞菜に、血の繋がった本当の家族がいるように、あたしも、みんなのことを
本当の家族だと思ってるから――」
それは、栞菜を慰めるためだけに出た、口先だけの言葉じゃない。
紛れも無い、自分の本当の気持ちだと思う。
瞼の裏に、妹たちの姿が浮かんだ。(あいつらめ)と、昨夜のことを思い出す。
それでも、舞美の顔からは思わず笑みがこぼれる。
「もちろん、離れていても、栞菜も」
舞美が加えた言葉に、栞菜が「……ありがと」と小さく言う。
「じゃあ、みんなと会うのも問題ないよね?」
舞美が言うと、「でも、みんなは……」栞菜が訊き返す。
「……ねえ栞菜、憶えてる?以前、栞菜が愛理を『初デートの練習するんだ』って言って
連れ出したことがあったでしょ?」
話を遮る舞美の突然の質問に、
『憶えてるよお! みんなで跡をつけてきて、その日はメチャクチャになった!!』
栞菜が戸惑うこと無く即座に返事をした。「あれは、あたしたちのせいじゃ無いじゃない」
舞美は思わず笑って答えてしまう。
「……あれねえ、面白そうだからついていこうよって、誰が言い出したと思う?」
舞美が訊くと『……千聖と、マイちゃん?』栞菜が答えた。舞美が「そう」と頷く。
やっぱり、その二人しか思いつかないよね?と、舞美はまたおかしくなる。
そして、面白そうなことに目がなく、常に悪戯心でいっぱいなのは、今も変わらないんだよ。
『……でも、それが?』訊き返す栞菜に、
「あ、ごめんね栞菜。ちょっとだけ、そのまま待ってて!」
舞美は言い、携帯を持った右手を下ろす。正面に、劇団の先輩である羽田の姿を見つけたからだ。
こっちへ向かって歩いてくる羽田に、舞美は左の掌を振って答えた。
羽田が前まで来ると、舞美は(どうでした?)と問うようにその顔を見上げる。
「驚いたなあ、本当にいたよ。向こうの柱の陰に、君の妹さんたちが三人」
羽田は、舞美に顔を近づけると、視線だけをこっそりと柱の方に向けて舞美に知らせた。
「おかしな変装して隠れてたから、すぐわかったよ」笑う羽田に釣られて、舞美も笑う。
「でも、おかしなことを頼んじゃって、すいません」
舞美が、頭を下げて何度目かのお詫びをすると、
「いいってば。何度も言ったように、僕も丁度ここで待ち合わせだったんだから」
羽田が、笑顔を崩さずに言った。
イブの日に、この場所で彼女と待ち合わせてデートをするんだ、と喜んでいた羽田に、
じゃあ、同じ日に、同じ場所で自分も待ち合わせをするので、自分の妹たちが隠れて見張って
いないか、待ち合わせのついでにこっそり周りを探ってみてくれないか?と舞美は頼んでいた。
「……それにさ、探偵みたいでちょっと面白かったよ」
羽田が、着ていたコートの懐から一枚の写真を取り出して見せた。
羽田は以前に妹たちと顔を会わせているが、念のために渡しておいたみんなのスナップ写真だ。
まるで子供のように愉快そうな羽田の表情に、無茶なお願いをしていたんじゃないか?と
心配していた舞美は、ほっと胸を撫で下ろした。
「それよりさ、今度は本当に二人でデートでも、どう?」
羽田が悪戯っぽく言うと、後ろから羽田の本当のデート相手である女性が近づいてきて、
「こら!」と羽田の脚を靴先で蹴り上げた。「いてっ!」と声を上げ振り返った羽田は、
「あはは、冗談だってば、冗談」と弁解するように彼女に笑ってみせた。
その姿を見て、思わず舞美も一緒に笑ってしまう。
陽気な性格の羽田の口説き文句が、いつもの軽口なのは舞美も彼女も承知の上だ。
「ごめんなさい、羽田さんにおかしなことを頼んじゃって」
舞美はあらためて、何度か顔を合わせたこともある羽田の彼女に頭を下げた。
「いいんだって、こんなバカでよかったら、いつでも使ってやって」
言いながら、羽田の彼女が、羽田の左腕に手を回す。羽田が、怒るでもなく照れながら笑う。
イブの夜に寄り添い腕を組む、お似合いの二人を舞美は少しだけ羨ましく思った。
「じゃあ、僕らは行くからさ」そう言って、羽田と彼女は、振り返り歩いていった。
舞美は、羽田に教えられた柱の方を、顔を動かさずに横目で見る。
いるのは三人と聞き、誰がいないのか、すぐに想像がついた。
おそらく、一番会いたいであろう愛理がいないけど、あの子の忙しさでは仕方ないか……と思う。
「……ごめんね栞菜、お待たせ」
舞美は、再び携帯に話しかけた。
『ううん。もうすぐ、そっちに着くからさ、もう切ってもいいよ?』
「あ、待って。その前に、さっきの話だけどさ……」
『さっきの話?千聖とマイちゃんのこと?』
「そう」
話しながら、そっと動き始める。柱の側から死角になるツリーの陰へと、身を隠すように
さっと移動する。
「……最初に言ったでしょ?あたしは、今日はデートだって嘘ついて出てきたって」
舞美が話を続ける。『……』栞菜は、それを黙って聞いている。
「さんざんデートだって自慢してさ、でも相手は教えないで、みんなの前で待ち合わせ場所と
時間が聞こえるように電話で話して……」
>>92
全員集合の特別感は(自分は)最終話で。
今作は後4回(4レス分)で終わります。内ラスト3回絶賛煮詰まり中・・・
舞美は昨晩のことを思い出す。「見栄を張るな」とか「嘘だ」とか散々言われたけれど、
おかげで自然に事が運べた。今となっては感謝するべきかな、と思う。
舞美は、立っていたツリーの後ろを回り込み、柱へ向かって遠回りに歩きながら話す。
「……そんな面白そうなこと、あの二人が黙ってると思う?」
『ねえ舞美ちゃん、それってもしかして……』
「んふふふふ……じゃあ、待ってるからね」
栞菜の言葉を薄笑いで遮って、舞美は携帯を切る。
三人が隠れていると教えられた柱にそっと近づき、ツリーが覗ける位置の反対側へと回って
覗き込むと、何やら驚き騒いでいる早貴、千聖、マイの後ろ姿があった。
その様子が、とても可笑しくて、愛しいと舞美は思えた。
(三人とも、よく来てくれたね!栞菜が来るまで、ここで掴まえて放さないんだから!!)
思わず跳びつき抱きしめたくなる衝動を、ぐっと堪えて、後ろからそっと近づく。
まずは驚かせてやろうと、顔を引き締め、すっと息を吸う。
「……あなたたち、そこで何してるのッ!?」
舞美の声に、「わああ!!」と三人が声を上げた。驚き、振り向いたその顔を、
舞美は極上の笑みで迎えた。
――――――――――――――――――――――――――――
〜栞菜の待ち合わせ〜
(……やっぱり!)
栞菜は、舞美との待ち合わせ場所である大きなクリスマスツリーの前へ向かう途中で、
舞美の他に、早貴と千聖とマイの姿を見つけて、思わず足を止めた。 ずっと会いたいと思っていた懐かしいみんなの姿に、栞菜の瞳が潤む。舞美の計らいに感謝をした。
でも……と栞菜は躊躇する。さっき、舞美には言えなかったことが頭に浮かぶ。
自分が、えりかや舞美個人とは会えても、みんな一緒には会いたくない理由――。
ねえ舞美ちゃん。舞美ちゃんは、みんなの側にいるからわからないかもしれないけど、
みんなと会った後、楽しければ楽しいほど、一人に戻ると、きっとすごく寂しくなるんだよ?
栞菜は、そこから動けなくなった。立ち止まったまま、四人の様子をうかがう。
早貴たち三人は、舞美に向かって何か怒っているようだ。舞美は、三人を軽くいなしながら、
にこにこと笑って何かを説明しているように見える。
「まあまあ」と言う舞美の優しい声が、ここまで聞こえてきそうだ。
きっと、舞美の穏やかな笑みに包まれ、みんな許してしまうんだろうなと思えた。
そのくらいのことは、わかる自信があった。だって、かつては、自分もあの中にいたのだから。
やがて、三人の不満げな顔が徐々に和らいでいくのがわかり、(そら見ろ)と栞菜は心の中で呟く。
みんな変わらないな、と思う。しかし、自分は今、あの中にはいない。
ねえ舞美ちゃん。自分の大切だった場所に、自分がいなくても、何も変わらないのを見ること。
それは、自分が“必要ない存在”だったと思わされるようで、栞菜には何よりも辛いことなんだ。
昔を、思い出してしまうから。
棄てられた自分は“必要ない存在”だと、泣いてばかりいた小さい頃を思い出してしまうから――。
ふいに、誰かに自分を呼んで欲しいと思った。
手に力が入る。右手には、さっきまで舞美と話していた携帯が握られていた。すがるように
舞美を見る。が、舞美は気付かずに早貴たちに笑顔を向けている。
みんなと会うのに、怖気づいている自分に気付いた。舞美ちゃんには後であやまろう、
みんなに気付かれる前にこの場を去ろうと、栞菜はその場で舞美たちに背を向けた。
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〜愛理の待ち合わせ〜
愛理は、この日の仕事を終えて、早貴と約束した待ち合わせ場所へと急いでいた。
歩きながら、早貴から届いたメールの内容を思い出す。
『今日は、せっかくのイブなのに舞美ちゃんがいないんだって。で、何か悔しいから、
みんなで美味しいレストランにでも行こうって話してたんだけど、愛理も来れるかな?』
(行ける行ける!行けますとも!)
『美味しいレストラン』と聞き、愛理は二つ返事で返信をした。もう、どんなに忙しくても、
必ず向かってみせる!と意気込み、愛理は早足で進んでいた。
待ち合わせ場所までもう少しというところまで近づくと、愛理は腕時計で時間を確認した。
(……よかった、何とか約束の時間に間に合いそうだ)と安堵し、そこでやっと歩を緩める。
少し、気持ちに余裕が生まれた愛理は、再びメールの内容を思い出した。
……何で、舞美ちゃんがいないと悔しいんだろう?きっと、昨晩に何かあったのかな?と
考えてみる。
仕事で遅くなった愛理が家に帰ると、めずらしく舞美がすでに自室に戻って姿を見せなかった。
リビングにいた早貴、千聖、マイの三人が、互いに顔を見合わせ、何かを企んでいるように見えた。
「何、何、どうしたの?」と愛理が訊いても、「ううん、別に」とはぐらかされてしまった。
「ふうん、そう……」と、愛理は平然を装ったてみたが、ほんの少し寂しく感じた。
芸能の仕事を始めて忙しくなった愛理は、最近みんなから「愛理は忙しいから……」という
言葉をよく聞くようになった。
でも、愛理には自信があった。夢だった歌のお仕事だもの。どんなに忙しくても大丈夫だと思った。
学校の成績も落ちてはいない。勉強と、仕事の両立も頑張ってこなしていると自分では思う。
しかし忙しくなることで、愛理には予想外のことがあった。土曜や日曜も、仕事で家を
空けることが多くなる愛理は、家族のイベントに参加できないことが増えてしまった。
仕方ないなと思いながらも、昨夜のように何かを内緒にされるのが、何よりこたえた。
だから、こうやって呼んでもらえることが愛理には嬉しかった。
ふと、昔を思い出した。誰よりも、自分のことを考えてくれていた姉がいたことを――。
常に側に寄り添い、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた、自分よりも背が低かった姉の存在。
あの頃は、寂しいなんて思ったことは無かったな。たまに振り回されたりもしたけど、
それさえも何だか懐かしく思える。
……何で、急にそんなことを思い出しちゃったんだろう?弱気になっちゃったのかな?
違う……と愛理は思いたかった。きっと、目の前に立ち止まっていた女性の後ろ姿が
似ていたせいだ。(そうだ、ちょうど身長もあれくらいで……)と、愛理は思い出す。
(あいつめ、会いに来ないどころか、最近はメールの返事もくれないぞ)軽く憤ったあと、
(久しぶりに、会いたいな……)
心の中で、そうつぶやいたとき、突然その女性が愛理の方に振り返った。
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〜再会〜
「……栞菜あ!!」
振り向いたときに、突然、栞菜は正面から名前を呼ばれた。
「何だよお、今ちょうど会いたいなって思ったとこだよ!ねえねえ奇跡ってあるのかな!?
だって今日はクリスマスイブじゃん!!」
愛理が、一気に捲くし立てるように喋ると、跳びついてきて両手で栞菜の手を握り揺さぶった。
愛理の声に気が付き、早貴、千聖、マイたちが一斉にこっちを向いた。
「あー!!」「栞菜!!」「栞菜あ!!」
みんなに、大きな声で名前を呼ばれた。その瞬間、栞菜はあの頃を思い出した。
棄てられた自分は“必要ない存在”だと思っていた頃――。
舞美たちがいるホームに入所した栞菜は、ホームからの家出を繰り返す子だった。
その度に、みんなに捜された。
自分を見つけたみんなは、いつも「栞菜!」と大きな声で名前を呼んでくれた。
そのときの、みんなの笑顔が不思議だった。おとうさん、おかあさんと呼ばれていた職員の
二人は、栞菜に優しかった。
連れ戻された後も、「どうせ栞菜なんていらない子だもん!」と拗ねて言う自分を、
舞美は「ばか!」と叱った。そのあと、思い切り舞美に泣かれた。
やがて、栞菜は家出をしなくなった。「自分はいらない子」と言うことも無くなった。
栞菜の家出は、栞菜に“帰る場所”の存在を教えてくれたから。
みんなに名前を呼ばれて、舞美が“家族”と言った意味がわかった気がした。
離れていた時間も、つまらない拘りも、もう何も関係が無い。
隔たりは、その瞬間に大きな両方の瞳から、溶けて流れ出した気がした。
「栞菜あ!」
駆け寄ってくるみんなを、泣き顔で迎えたくないと思った。
赤い目のまま笑顔を見せると、「みんな……」栞菜は自然とその言葉を選んで言った。
「……ただいま!」
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〜そして、これから〜
「ねえ栞菜、ちょっと太ったんじゃない?」
再会してほんの数分後に早貴が訊いた。
「ホントだ。栞菜、何かぽっちゃりしてるし!」
続けてマイが言った。
「うはははは!ねえその顎のお肉やばいって!」
千聖が、指を差して遠慮なく笑いとばし、舞美と愛理がくすくすと笑った。
「……うるさいッ!」
顔を赤くした栞菜が、音を立てて千聖をはたく。
まったく、相変わらず遠慮のない連中だ!
こうなったら、こっちも遠慮なんかしてやるもんか!
これからは、会いたくなったら、何度でも会いにきてやる。
寂しくなったら、何度でも会いにきてやるんだから!
覚悟してろよ、と企み微笑む栞菜の顔が、そのままみんなの笑みに加わる。
そういえば、みんなで笑うのは久しぶりだな。その喜びが、栞菜の笑みを本物にした。
栞菜の笑みは、ずっと一緒にいたかのように、すぐにみんなに馴染んで溶けた。 久しぶりに覗いたら新作が!
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