ついに鋼兵復活の日が来た。(裏)

俺は川本恒平、歌い手だ。訳あって引退を余儀なくされていたが、アンチを見返すために復活することにした。
残り少ない貯金をはたき、消滅しかけたツテを頼ってなんとかライブにこぎつけることに成功したのだ。
このライブを成功させれば少数のアンチは苦しんで死に、大勢のファンが戻ってくる。
ライブ前日はそのせいか興奮してどうしても眠れなかったため、漫喫にこっそり持ち込んだグリーンラベルを全てあけてしまった。
少々のどの調子がおかしいが、どうせファンはバカだから気づきはしないだろう。

当日、会場につくとステージ裏にどかっと腰を下ろす。
無造作に置かれた差し入れ(に違いない。絶対そうだ)のチーズバーガーの肉だけすすっていると、スタッフがひとり近寄ってきた。
挨拶をしようと手を上げたところ、そいつは目をかっと見開いて言った。

「あなた誰ですか!?何してるんですか!?」

一気に顔に血が上るのを感じる。ライブの主役の顔を覚えていないスタッフがどこにいるって言うんだ!
そいつを射殺すように睨み付けていると、他のスタッフ達が集まってくる。
サプライズにしてはひどく悪質なそれに「ツッマンネクッダンネ」と抗議の声を上げる。
すると、他のスタッフ共もこのアンチと同じ目で俺を見てきやがった。クソックソッ!なんでそんな目で俺を見るんだ!?

まさかこいつら……『俺の復活を妬んだアンチ』か!?

なんとアンチはスタッフに化けてライブに入り込むという暴挙を犯していたのだ!
それに気づいた俺が歯噛みしていると、スタッフ──いや、アンチの一人が口を開いた。

「えと…あのすいません、あなた……鋼兵さん……です、か?」

人をおちょくるのもいい加減にしろアスペガイジ!!
俺は怒りにまかせて机をガンと蹴りつけると、そいつらのいないステージの袖に移動した。
偽のスタッフが放った言葉は、アンチスレで幾度となく見た嫌がらせと同じものだった。
もういい、話すことなんてない。スタッフにはライブの段取りはメール済みなんだ。
アンチが妨害しようがなんだろうが関係ない。音楽が流れなくったってアカペラで歌ってやる。

ついにライブの時間が来た。
ステージに躍り出た俺は、スポットライトを一身に浴びる。
帰ってきた──この光り輝く舞台に。そう思うとついつい顔がほころんでしまう。
そして、ファンの歓声に期待して耳を澄ました。
しかし、聞こえてきたのは、ひそひそと話し込む声だけだった。
不審に思って目をやると、ファン共はみんな俺のことを怪訝な目で見てきているじゃないか。

まるであのスタッフアンチ共と同じ目だ……同じ?まさか……っ!!

衝撃の事実に俺は凍りついた。なんと『集まったファンもアンチ』だったのだ!!
だがこんなところでライブを中断するわけにはいかない。
とりあえず鉄板のつかみである「おじさん、デリヘル読んじゃおうかなー?」と観客をあおってみる。
だが、誰一人声を上げるものはいない。クソックソックソッ!!会場にいる全員がアンチだった!!
クソックソッ!俺に嫉妬しやがってクソッ!!

すると突然曲が流れ始めた。
アンチが俺の動揺を見越して流したのだ!クソがっ!そうに決まってる!
俺はあわてて腕にびっしりと書き込んだ歌詞に目をやる。
しかしそれは大量にかいた汗でにじんで読むことができなかった。クソッ死ね死ね死ね!!
俺はうろ覚えでなんとか歌をうたったが、会場には一体感もなにもない。そこはまさに地獄だった。

やがてストレスでとんでもない便意が襲ってくる。だが俺はもうそんなことすら、どうでもよくなっていた。
復活する最後のチャンスだったライブは台無しにされてしまったのだ。もう一度やる貯金はない。
だけど俺は(悪くない)。だってこれはすべてアウアウTのせいに違いないのだから。

脱力すると同時に、糞が濁流のように漏れ出した。
パンツがずっしりと重みを帯びた瞬間、客席の最前列にいたアンチのひとりが出口へとかけていく。
糞の重みでズボンがずり落ちて、下半身が丸出しになったと同時に俺は全てを失った。