−シナプス関連遺伝子NLGN1の変異が原因となる可能性−
自閉症(自閉スペクトラム症)は、社会的コミュニケーションの障害と繰り返し行動、こだわりの強さを特徴とする発達障害の一つです。症状は対処療法によって和らぐ場合もありますが、生涯にわたり表出します。
自閉症は遺伝的要因が強く関与する病気であり、特定の遺伝子の変異が発症の原因となることが知られています。なかでも近年、神経細胞同士が情報を伝える場であるシナプスに関連する遺伝子の変異が多く同定されていることから、シナプス異常と自閉症の関連が強く示唆されています。例えば、シナプスに存在するNLGN-NRXN-Shank経路のタンパク質の変異には、これまで複数の自閉症候補遺伝子が同定されており、自閉症に重要なシグナル経路だと考えられています。
今回、理研を中心とする国際共同研究グループは、自閉症患者から新たにNLGN1と呼ばれるシナプス関連遺伝子において、五つの「ミスセンス変異」を同定しました(図A)。ミスセンス変異とはDNAの塩基が変化することにより、異なったアミノ酸を持つタンパク質が合成されるような変異のことです。また、患者で発見されたミスセンス変異が、@NLGN1タンパク質の減少などの異常(図B,C)、Aシナプス後部構造のスパイン形成不全などの機能喪失を引き起こしていることが明らかになりました。さらに、ゲノム編集技術を用いて、患者で発見された変異を導入したモデルマウスを作製し、行動を観察しました。その結果、変異マウスは社会的コミュニケーションや空間記憶能力に異常を示すことが分かりました(図D)。
本成果は、NLGN-NRXN-Shank経路の重要性を裏付けるもので、今後、この経路を標的とした治療薬の開発や自閉症メカニズムの解明に役立つと期待できます。
▽引用元:理化学研究所 2017年8月26日 60秒でわかるプレスリリース
http://www.riken.jp/pr/press/2017/20170826_1/digest/
図 自閉症患者におけるNLGN1遺伝子変異の同定と表現型解析
http://www.riken.jp/~/media/riken/pr/press/2017/20170826_1/digest.jpg