アンパンマンが郷田ほづみを金属バットで殴殺した [無断転載禁止]©2ch.net
レス数が1000を超えています。これ以上書き込みはできません。
黄いろい並木の銀杏いてふの落葉も、その中でくるくる舞ひながら、大学前の古本屋の店の奥まで吹かれて行つた。 松岡は自分と(恐らくは大抵な人と)違つて大風の吹く日が一番落着いて好いと称してゐた。 だからその日などは殊に落着いてゐるだらうと思つて、何度も帽子を飛ばせさうにしながら、やつと本郷五丁目の彼の下宿まで辿りつくと、下宿のお婆さんが入口で、「松岡さんはまだ御休みになつていらつしやいますが」と、気の毒さうな顔をして云つた。 恐ろしく寝坊だな。」「いえ、昨夜徹夜なすつて、ついさつきまで起きていらしつたんですがね、今し方寝るからつて、床へおはいりになつたんでございますよ。」「ぢやまだ眼がさめてゐるかも知れない。 寝てゐればすぐに下りて来ます。」自分は松岡のゐる二階へ、足音を偸ぬすみながら、そつと上つた。 上つてとつつきの襖ふすまをあけると、二三枚戸を立てた、うす暗い部屋のまん中に、松岡の床がとつてあつた。 枕元には怪しげな一閑張いつかんばりの机があつて、その上には原稿用紙が乱雑に重なり合つてゐた。 と思ふと机の下には、古新聞を敷いた上に、夥おびただしい南京豆の皮が、杉形すぎなりに高く盛り上つてゐた。 自分はすぐに松岡が書くと云つてゐる、三幕物の戯曲の事を思ひ出した。 「やつてゐるな」――ふだんならかう云つて、自分はその机の前へ坐りながら、出来ただけの原稿を読ませて貰ふ所だつた。 が、生憎あいにくその声に応ずべき松岡は、髭ののびた顔を括くくり枕まくらの上にのせて、死んだやうに寝入つてゐた。 勿論自分は折角徹夜の疲を癒してゐる彼を、起さうなどと云ふ考へはなかつた。 しかし又この儘帰つてしまふのも、何となく残り惜しかつた。 そこで自分は彼の枕元に坐りながら、机の上の原稿を、暫しばらくあつちこつち読んで見た。 その間も凩はこの二階を揺ぶつてしつきりなく通りすぎた。 自分はやがて、かうしてゐても仕方がないと思つたから、物足りない腰をやつと上げて、静に枕元を離れようとした。 その時ふと松岡の顔を見ると、彼は眠りながら睫毛まつげの間へ、涙を一ぱいためてゐた。 いや、さう云へば頬の上にも、涙の流れた痕あとが残つてゐた。 自分はこの思ひもよらない松岡の顔に気がつくと、さつきの「やつてゐるな」と云ふ元気の好い心もちは、一時にどこかへ消えてしまつた。 さうしてその代りに、自分も夜通し苦しんで、原稿でもせつせと書いたやうな、やり切れない心細さが、俄にはかに胸へこみ上げて来た。 体でも毀こはしたら、どうするんだ。」――自分はその心細さの中で、かう松岡を叱りたかつた。 が、叱りたいその裏では、やつぱり「よくそれ程苦しんだな」と、内証で褒めてやりたかつた。 さう思つたら、自分まで、何時いつの間にか涙ぐんでゐた。 それから又足音を偸ぬすんで、梯子段はしごだんを下りて来ると、下宿の御婆さんが心配さうに、「御休みなすつていらつしやいますか」と尋きいた。 自分は「よく寝てゐます」とぶつきらぼうな返事をして、泣顔を見られるのが嫌だつたから、々そうそう凩の往来へ出た。 往来は相不変あひかはらず、砂煙が空へ舞ひ上つてゐた。 さうしてその空で、凄すさまじく何か唸るものがあつた。 気になつたから上を見ると、唯、小さな太陽が、白く天心に動いてゐた。 自分はアスフアルトの往来に立つた儘、どつちへ行かうかなと考へた。 伴天連ばてれんうるがんの眼には、外ほかの人の見えないものまでも見えたさうである。 殊に、人間を誘惑に来る地獄の悪魔の姿などは、ありありと形が見えたと云ふ、――うるがんの青い瞳ひとみを見たものは、誰でもさう云ふ事を信じてゐたらしい。 少くとも、南蛮寺なんばんじの泥烏須如来でうすによらいを礼拝らいはいする奉教人ほうけうにんの間あひだには、それが疑ふ余地のない事実だつたと云ふ事である。 古写本こしやほんの伝ふる所によれば、うるがんは織田信長おだのぶながの前で、自分が京都の町で見た悪魔の容子ようすを物語つた。 それは人間の顔と蝙蝠かうもりの翼と山羊やぎの脚とを備へた、奇怪な小さい動物である。 うるがんはこの悪魔が、或は塔の九輪くりんの上に手を拍うつて踊り、或は四よつ足門あしもんの屋根の下に日の光を恐れて蹲うづくまる恐しい姿を度々たびたび見た。 或時は山の法師はふしの背にしがみつき、或時は内うちの女房にようばうの髪にぶら下つてゐるのを見たと云ふ。 しかしそれらの悪魔の中で、最も我々に興味のあるものは、なにがしの姫君ひめぎみの輿こしの上に、あぐらをかいてゐたと云ふそれであらう。 古写本こしやほんの作者は、この悪魔の話なるものをうるがんの諷諭ふうゆだと解してゐる。 ――信長が或時、その姫君に懸想けさうして、たつて自分の意に従はせようとした。 が、姫君も姫君の双親ふたおやも、信長の望に応ずる事を喜ばない。 そこでうるがんは姫君の為に、言を悪魔に藉かりて、信長の暴を諫いさめたのであらうと云ふのである。 この解釈の当否は、元より今日こんにちに至つては、いづれとも決する事が容易でない。 このスレッドは1000を超えました。
新しいスレッドを立ててください。
life time: 547日 10時間 34分 59秒 5ちゃんねるの運営はプレミアム会員の皆さまに支えられています。
運営にご協力お願いいたします。
───────────────────
《プレミアム会員の主な特典》
★ 5ちゃんねる専用ブラウザからの広告除去
★ 5ちゃんねるの過去ログを取得
★ 書き込み規制の緩和
───────────────────
会員登録には個人情報は一切必要ありません。
月300円から匿名でご購入いただけます。
▼ プレミアム会員登録はこちら ▼
https://premium.5ch.net/
▼ 浪人ログインはこちら ▼
https://login.5ch.net/login.php レス数が1000を超えています。これ以上書き込みはできません。