http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-44080481
2016年、配車サービス「ウーバー」で年俸10万ドル以上を稼いでいたソフトウエアエンジニアが自殺した。
家族は、職場のストレスが原因だと非難した。2013年には、投資銀大手メリル・リンチで働いていた
21歳のインターンが、てんかん発作の後に死亡した。この若者は72時間連続で働いていた。2010年には、
鉄鋼大手アルセロールミタルが米国の工場を閉鎖した3週間後、56歳の元従業員が心不全で死亡した。
家族は失職によるショックが原因だとしている。
欧州連合(EU)の欧州労働安全衛生機関の報告によると、米国では労働損失日数5億5000万日のうち半数が
「ストレスを理由とする」損失だったという。
2015年に行われた300件近くの研究の分析では、有害な職場慣行は受動喫煙や発がん性物質と同じくらい
死亡率を上昇させ、医師が診断できる病気の原因となることが分かった。
有害な職場慣行とはこの場合、長時間労働、仕事と家族の摩擦、失職による経済的不安、規則的で
予測可能な勤務時間がないこと、職場で裁量を与えられていないことなどを指す。米国ではさらに、
健康保険に加入していないことも挙げられる。
労働環境は人を病気にし、殺すことさえある。それだけに、きちんと考える必要がある。
世界中で医療コストが上昇するなか、職場は公衆衛生にとって重大な問題となっている。産業機器大手
バリー・ウェーミラーのボブ・チャップマン最高経営責任者(CEO)は私に、「(米病院大手)
メイヨー・クリニックによれば、かかりつけの医師よりも上司がどういう人間かの方が、健康には大事だ」と話した。
世界経済フォーラム(WEF)推計によると、世界の医療コストの約3分の2は、死亡要因の63%を占める
慢性疾患や非感染性疾患に充てられている。慢性疾患はストレスに加え、喫煙や飲酒、ドラッグの常用、
ストレスによる過食といった不健康な習慣が原因だ。数多くの研究が職場がストレスの主要な原因だと
指摘しており、だからこそ、職場環境がヘルスケア危機の重要な原因とされている。
その名も正にといった米国ストレス協会は、職場でのストレスが米経済に与える影響は年間3000億ドルに上ると
指摘している。私が著者として加わった研究では、有害な職場管理によって毎年12万件の死亡件数と、
1900億ドルの健康コストが上乗せされている。このため労働環境は死亡原因として、肝臓疾患や
アルツハイマー病を押しのけ、第5位になった。英安全衛生庁(HSE)の調査では、職場が原因のストレスやうつ、
不安症によって、2016〜2017年度の労働損失日数が1250万日に上った。
どれも無用な損失だ。なぜなら、人に悪影響を与える職場慣行は企業そのものにとっても、メリットに
ならないからだ。残業は国レベルでも産業レベルでも、時間当たりの生産性に悪影響を与える。
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