そして、家族を基本単位として個々の農民の方針で土地利用がなされている。
モザンビーク北部に暮らす小農たちは、小川から水を引き、農薬や化学肥料も使わずに多様な作物を栽培し、食料の多くを自給、余剰で乾燥した魚を年間分買うなどしていた。
その土地に、ある日突然、日本・ブラジル・モザンビークの政府がやってきて「あなたたちの農業は低生産。だから貧しい。我々が大規模な農業開発をしてあげる」と告げた。
しかし計画に関する情報は一切得られず、同時に、日本や世界からやってきた投資家が「ここで大豆を生産したら、日本の商社が購入します」といった投資セミナーを展開した。
そして渡辺さんが「土地収奪の現状は、探すのに苦労しないほど頻発していました」と振り返るように、
小農たちは自分たちの土地も奪われるのではとの不安に置かれていたのだ。
「小農支援」のための事業が、小農の生活を追い詰める
海外アグリビジネスにより収奪された土地に立つ住民。企業により大豆が植えられている
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JICA(国際協力機構)が推進するプロサバンナ計画のタテマエは「小農のための支援事業」だ。ここがおかしいと渡辺さんは強調する。
「ならば当事者である小農がなぜ話し合いに参加できないのか。なぜ計画が知らされないのか? これが判らないから、モザンビークからわざわざ来日したのです。
投資セミナーは2013年4月までは確実に行われていて、日本の商社も参加していました。主権者はいったい誰なのでしょうか?」(渡辺さん)
不安に思った小農が政府に疑問の声をあげると「投獄するぞ」と脅される。このままでは、知らないうちに土地を収奪されてしまう。
実際、国内各地では国内外の企業が「投資だ」「開発だ」と小農たちから土地を奪い始めていた。
そこで生産されるのは、自分たちが食べない大豆。モザンビーク政府も自分たちの権利を守ってくれない……。
「私には、モザンビークの農民の言っていることが至極まっとうに聞こえました。彼らは、自分たちの農業のあり方に誇りを持ち、それに基づいた発展のビジョンももっている。
一方で、現実を見ず、彼らを『貧しい』と決めつけ、情報開示せずに彼らに「変わること」を強制する『開発』は一方的です。
私はモザンビークの農民たちのビジョンや主張に共感し、彼らとともに活動するようになりました」(渡辺さん)
以後、渡辺さんは南アフリカでの活動を行う一方、モザンビークを4年間で9回訪れた。
「感情」ではなく「事実」をもとに公聴会無効化を訴える
2015年4月、モザンビークの対象19郡および事業対象3州の州都、首都マプトでこの計画に関する公聴会が開催された。
公聴会とは、当事者が行政に対して自分の意見を公述できる場であるが、蓋を開けてみれば、参加したのは、計画に賛成する地元の有力者、政府与党系の住民、中規模の力のある農民らが多数を占めた。
その結果、「住民は事業に賛成してる」との政府見解を補強するセレモニーとして公聴会は終了した。
いくつかの公聴会では、「招待状を持っていない」として計画に反対する小農の入場が拒否されたり、
開催地の郡長が「ここは反対の声を聴く場ではない」と公聴会開始にあたって釘を刺したりする場面もあった。
また、これに資金提供していたにも関わらず、JICAなど日本政府の関係者は不参加。
誰かが公聴会に参加し、その内容を確認しないことには、何が起きても「モザンビーク国内の問題だ」とあしらわれることを予測した日本の市民社会は、渡辺さんを現地に派遣した。
渡辺さんは公聴会の一部始終をビデオ録画、音声録音し、これらに基づいて公聴会の結果を発信した。
果たして、公聴会で起きた「ファクト(事実)」に世界各地の80を超える組織や研究機関や教会などが「これはおかしい」と公聴会の「無効化」を訴えたのだ。
渡辺さんたちNGOが問題の周知にあたり基本スタンスとしたのは、「ファクト」だけを武器とすることだ。「計画反対!」との「感情」では世論の喚起にも解決にもつながらない。上記の公聴会の記録もその一つだが、
NGO側が力を傾けたのは、情報公開法を駆使しての情報収集だ。その結果、およそ100件の公文書を入手する。そのなかでも、根幹的な情報をもたらしたのは「リーク」文書だった。
https://hbol.jp/157022