月刊正論2017年2月号
[特別対談]歴史問題はなぜ置き去りにされているのか   評論家 西尾幹二 × 京都大学名誉教授 中西輝政
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 【中西】 ・・・(略)・・・日本の学者としては、価値観や歴史観においてもアメリカとくにワシントンのそれと同じでなければ、「親米派」と言えない
そうです。それなら私は親米ではありません。・・・(略)・・・
        ・・・(略)・・・
 【中西】 湾岸戦争(1991年)の時、私は政治学界の親米ロビーの大御所だった猪木正道先生から「破門」を言い渡されました。アメリカの
湾岸戦争への介入の仕方を批判したからです。・・・(略)・・・
 その直前の86〜87年、私はアメリカに滞在していました。ゴルバチョフがソ連共産党書記長になり、まもなく冷戦は終わってソ連の脅威は
なくなる、そうすると米欧関係も日米関係もバラバラになるのではないか、それはアメリカの覇権維持にとって大変マイナスではないか―という
議論がすでに始まっていました。・・・(略)・・・また当時、「パックス・ジャポニカ」の時代が来るのではないかともいわれた日本の経済的台頭で、
ワシントンは日本が一挙に同盟から離れていって、アメリカの影響圏から離脱してしまうんじゃないかと恐れ始めたんです。
 【西尾】 あのときの日本は昇り龍でしたから。
 【中西】 ですから、私がケネディやリップマンの議論に則って、私が湾岸戦争の批判をしたら、ワシントンはカンカンになったそうです。日本が
同盟から自立する兆候の一つだ、ときうような見方が、ワシントンで広がっていたようです。ワシントンで一度、反米ないし離米派、などと烙印を
押されると、日本の論者、日本だけではありません、ドイツやイギリスなど同盟国の評論家とか官僚はみんな色分けされるんです。
 【西尾】 それは驚くことはないでしょう。向うは勝手にしているだけですから。問題は同盟国のほうにある。
 【中西】 ただ、日本の場合だけはその影響力がやたらと大きいのです。例えば、安倍首相の「70年談話」の時の有識者会議で、私は当然
ながら座長にも座長代理にも選ばれなかったのですが、もし万が一、日本政府がこうした色分けを知らずに座長なり座長代理に私を据えよう
としたら、ワシントンが介入してきたことでしょう。
        ・・・(略)・・・
 【西尾】 そこに私がコラム正論(産経新聞2007年4月27日「慰安婦問題謝罪は安倍政権に致命傷」)で強烈な批判を書いたものだから、
側近の古屋圭司衆議院議員が、「安倍さんが相当なショックを受けているよ」と、私に伝えてきたんです。安倍さんはこの件で、私を恨んで
いたかもしれない。
 【中西】 なるほど、「保守」と目される指導者が、保守の立場と正反対の政策を取ったときに、なぜ日本では保守層の反発を受けずに
押し通せるような構図になるのか。ここに日本の保守の大きな宿痾があると思います。
        ・・・(略)・・・
 【中西】 日本の保守には絶対的に不利な欠点がある。「安倍さんだから許すしかない」と属人的というか、中味ではなく人で決めつけてしま
う悪弊です。これは保守の根本問題です。「保守のリーダー」にリベラルなことをやらせる、この構図を取られると日本の保守は総崩れになる。
これでは永遠に保守の大義は実現しない。もし仮に左派や中道派が保守勢力を潰そうとしたら、「保守」とされる指導者を権力の座に就けて
リモートコントロールすることです。一瞬にして壊滅するでしょう。
《続く》